スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

インディゴ地平線 (作者:優)

インディゴ地平線 【14】

「後悔してる?」

岩の影で休憩しているとふとルディからそんなことを聞かれた。
あたしは口に含んだ少量の水を飲み込み彼を見る。砂の上に腰を下ろし、あ
たしを見上げながら彼は続けた。

「サナを出たこと。半ば強引に連れ出したと思うし。それに…」
「それに?」

何か言いたげな目を伏せてルディは今歩いて来た道を振り返った。

「やっぱりあの町はシャロを育ててくれた町だから」
「…、」

ちくん、と心に鋭いものを刺された気がした。
生まれ育った町を見捨てた罪悪感に自分の顔が曇るのがわかる。きっとここ
であたしが「後悔してる」と一言言えば、ルディが全て勝手に連れ出した自
分の責任だとするのだろう。
少しでもあたしの心を軽くするために。
シャロは何も悪くないよ、と笑ってくれるのだろう。けれど、

「後悔なんかしていないわ」

あたしだってそんなに弱くない。
今は初めての経験に戸惑い、恐れているけれど。いつかそれも受け入れあた
しは進んでいく。

「あたしはルディと一緒に居るだけで、いいの」

それに、

「…そうか」

(あなたのその表情の方が、よっぽど弱々しい)

町を出てから何日も経っているのに、今、そんな悲しそうな顔をするのは何
故なのか気になった。砂漠を歩く後ろ姿にはひとつの迷いもないように見え
た。なのに目の前で彼は地面を見つめ何かを考えている。
…いや、思い出しているように見えた。
はるか遠く、もう届かない過去に思いを馳せ、その時後悔した自分を思い出
しているような。

「…ルディは、後悔しているの?」

あたしの言葉に彼は思い出の中から現実へ戻ってくる。
町を出たことを、後悔している?あたしの知らない過去を後悔している?
ふたつの意味を込めて発した言葉だったが、彼には前者の意味だけ伝わった
ようで「俺も後悔してないよ」と笑った。
良かった、と微笑むと彼はゆっくり立ち上がり大きく背伸びをした。

「そろそろ行こうか。次の町はもうすぐだ」
「今日中に着く?」
「んー多分ね。あとふたつ町を過ぎたら砂漠の終わりも見えてくる」
「本当に!?」
「あぁ。それを抜けたらすぐ俺の住んでいた国だ」

ルディの言葉に胸が躍る。
いくら話を聞いても答えてくれなかった彼の故郷がもうすぐ見られるのだ。
あたしは少しでも早く進みたくなってルディの腕をとった。
国は逃げやしないよと笑う彼も心なしか楽しそうだ。

「ねえルディ!あなたの住んでいた国はなんていうの?」
「そうだな、次の次の町に着いたら教えてあげるよ」
「じゃあなおさら早く進まなきゃ!」

あたしは手を広げて前へと進む。目を閉じるとかすかに西から風が吹いてい
るのが分かった。病んでしまったあの町いた時とは違う風の匂い。
あたしはそれを吸い込み空を見上げた。
あいも変わらず頭上にある太陽。その輝きのような未来が砂漠の向こうにあ
ると、信じていた。

優 著