スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

優しくなりたいな (作者:あつこ)

優しくなりたいな 【3】

鼻歌が聞こえた
真夜中でその歌声に目を覚ました。
なんの曲だろう、と眠い頭でぼうっと考えるけれど何も分からないし、聞いたことのあるような懐かしい曲。
これ聞き覚えある、ポップスじゃない、ロックじゃない。演歌でも洋楽でも無いし童謡?
あ、ああ。

「なのはーなばたけーにいりーひうすれー」
朧月夜、だ。懐かしい曲、好きだった歌と懐かしく聞こえる歌声
眠気がまだ脳内を巡っていたけれど無理してでも体を起こして、耳を澄ます春の夜
朧月夜ってのは春の霞がかかったような月のことを言う。
ああ、今夜は朧月夜。ベランダから零れる薄い月の光は、なんだか切なくって印象強かった
こんな夜にお隣さんは何を思いながらこれを歌っているのだろう。
悲しい恋でもしているのだろうか。

お隣さんが女だと分かった

静かに月を見て、まるで月に見守られるかのように僕は布団にも入らずにそのまま、ベランダの手前で寝てしまった
朝起きたら体はガチガチに固くって寒くって。
鞭打つようにして起き上がって、アパートの部屋を出て隣を見たらもう人は居なくって。

不思議な人。どんな人だろう。いくつかな、顔は?声は?目と耳と鼻の感じ、考え方は?
いろいろと不思議で分からない所があるほうがこういうのは楽しいと思う
下手に詳しいと寂しくなってつまらない。
こういうのは、少し夢見ているぐらいが1番良いんだとおもう。


篠崎さん、篠崎。
僕は彼女を真弓と呼んだ、真弓は僕を苗字で呼ぶ。心地よい声が好きだった。

真弓は好き嫌いがほとんど無かった
だから食べれない給食は女子は真弓にあげていたり、真弓が自分からもらっていたり。
ああ、そうだ。バレンタインに真弓(のお母さん)からもらったことがある
手作りのケーキだった。あれにもドライフルーツが入っていた
変な縁があるものだと思う。
もしかして、呪われているのかもとか思って少し笑った

あつこ 著