スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ【24】

それはそれはキレイな寝顔だった、
まだ満ち足りない満月の光がスッと伸びた鼻筋を凛々しく映し、
瞼や睫毛からは水晶が溢れて来る様に美しかった


頬に触れると冷たくって、愛しさが倍増した
彼の頬に私は小さくキスをする、彼が起きる前に、バレないように。


気づかないで居てね、起きていても今までの通り気にしないで普通に接してね。

唇に柔らかなものが触れる、柔らかだけでは無く、冷たい。
覆いかぶさるようにして私は彼に近づいた、髪の毛先が彼の頬に、首に、肩に触れる
風が髪の毛をくぐり、私たちを隠すようにしてなびく


少しでも、彼の痛みや苦しみを分かってあげたかった
そのためには私は何をすればいい?
優しい言葉をかけてあげる?

―――きっとそんなんじゃぁ、彼の傷は癒えなどしない
じゃぁ、私は何をしたらいいの?彼のために私に何が出来る?

分からないけど私は何もあなたのために出来ないけど
もう少し、このままで居させて。


風に流された雲が月の光を遮る
あたり一面に広がる闇
暗がりの中、重ねる唇
―――冷たい、愛おしい。
この雲がまた、流れて月が出てくるまで。それまでこのままで。

雲が流れて黄色い光が降り注ぐ
それと同時に私は唇を彼から遠ざける

息が白い ああ、季節が過ぎていく 時間が過ぎていく
もう二日しか残ってないというのに。


翔太を見ると、なんだか恥ずかしくなって顔が火照ってきた
さっきまで、あの唇に―・・・・翔太気づいて無いと良いんだけれど。


しばらくすると翔太が目を覚ましたので私は焦りを隠して苺ショートを箱から出して彼に渡した

満ちかけの月を見ながら食べるアップルパイはやっぱり美味しかった
翔太も私も、お互い何も言わずにただ、月を、夜空を、黒い街を見ながらケーキを食べていた

あつこ 著