スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

スパイダーの悲劇 (作者:ミツル)

スパイダーの悲劇 【30】〜完結

<プリシラ>

    そこは一度行った、ピアノを弾こうとして弾けなかった例の部屋だった。クロリスがあの曲を弾いていたのだ。

   「あら、プリシラ。」手を止めてクロリスが言った。「あなた、夜中にどこかに行ってたでしょう?」

    じゃあ、本当だったんだ。

   「あの……今の曲、どうして?」

   「どうして私が知ってるかって? さぁ、どうしてでしょうね?」

    それだけ言って、クロリスは行ってしまった。

    なんだか落ち着かない。ピアノを弾きたいなって思った。今なら弾ける気がする。なんでだろう?

   「わからないことだらけだ。」

    そうつぶやいて、ピアノの前に腰を下ろす。

    鍵盤の上に指を置くと、スッと弾き始めることができた。弾いたのは、あの曲。地下室のピアノで、ルークの前でしか弾けなかった曲。

    涙が指に落ちた。何やってんだろ、私。ルークはいないのに。なんでこの曲が弾けるの? というか弾き方は忘れちゃってたくせに。

    本当はあそこで、私が闇の中に消えるはずだったんだ。でも、ルークが助けてくれた。ルークが、身代わりになってしまった。そして、私を

   あの闇の中へ連れて行こうとしたのも、ルーク。一体どういうことだろう?

    いやな考えが浮かんだ。でも、そんなことがあるはずがないと追いやった。けれども、そのいやな考え以外に説明する方法がないのだ。

    クロリスは何か知ってるんだろう。何か隠しているような気がする。


    『この坂道を一気に駆け下りれば、僕は自由になれるんだ。君が一緒に来てくれれば。』

    『僕はスパイダーじゃなくなって、自由になれるってこと。』


    スパイダーはルーク以外にもたくさんいる。他のスパイダーはどうなんだろう。

    ダイアナにきいてみようかな。いやがるだろうけど。

    あーあ、なんかお腹すいちゃった。今何時なんだろう? 朝食はとっくに終わっちゃった? 台所に行けば、何か分けてもらえるだろう。

    私はピアノの部屋を後にした。

    ルークにはもう二度と会えないんだ、と思う一方で子供っぽい私は、きっと奇跡みたいなことが起きてどこかで会えるんだ、と思っていた。


END





最後まで読んでくださった方(いらっしゃるかしら)ありがとうございま
す。

ミツル 著