スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

リコリス (作者:ユリコ)

リコリス 第5章 『沈黙の城』

空は黒い雲に覆われ
青い空などどこにも見当たらない。
むしろもう夜なのだろうかと思わせる。


山々に囲まれた盆地の中に不気味な城が建っていた…。



『沈黙の城』である。


この城はかつて『沈黙の女神』が存在していた城であり、
リコリスの力によって隠されていたが
封印を解かれ、女神共々に存在をあらわにしたのだ。






その城の中心部であろう広い部屋の中に
邪悪な光を放つ球体が浮いていた。

球体からは僅かながら心臓の鼓動のような音が聞こえてくる。

球体の前には
見た目はまだ若いが完全に白髪した男の姿があった。



「異世界からの使者が舞い降りました」


男が球体に向かって話し出した。


「まだまだ若い青年のようです。しかし彼の心の力は未熟。
 力が目覚める前に片付けた方が宜しいでしょう。どうかあなた様のお許しの御言葉を」


すると球体が静かに暗い光を小さく放った。


『力が…欲しい…。………わらわには…まだ力が足りぬ…。
 【火水風の輝石】の力が…欲しい……。あぁあぁあぁぁ…】


女性のうめき声が静かに部屋の中に響き渡った。

男が話し出した。


「神木リコリスが消滅して、あなた様の封印は解けたものの
 力さえもが完全に消滅してしまっていた…。あなた様の力を完全に取り戻すには…、
 【火水風の輝石】が必要…。それは百も承知です」


男は説得するような口調で続けた。


「しかし、異世界の使者はリコリスを復活させるべく
 【火水風の輝石】を必ず手に入れようとするでしょう。
 あれこそがリコリスの起源となるものですから…」


男は続けた。


「なのでまずは異世界からの使者をこの私に始末させてください。
 すべてが終わり次第、【火水風の輝石】を私が手に入れ、
 あなた様に捧げて差し上げましょう」


しばらくの間沈黙が流れた。


『そなたの…、目的は……?』


うめくように球体の中から声がした。
すると男は静かに


「すべてはあなた様のために。あなた様に会いたくて」


また沈黙が流れた。










『よかろう…行くが良い…』










静かに球体が光った。

そして、球体から一筋の光が男の胸を刺した。


「!?」


男は戸惑った。




『そなたに力を授けよう…。思う存分使うが良い…。
 そして…必ず…【火水風の輝石】をわらわの手に…』



男の身体は不気味な光を放ち出した。


男は自分の身体に今までにない力が
漲っていくのを感じた…。


しかし、同時に心臓の鼓動が速さを増した。



「……!?」



『もし…【火水風の輝石】を損ねたとき…
 異世界の使者を…倒すことが…出来なかったとき…』



男は身体のバランスを崩し、
その場にしゃがみ込んだ。



『その度にそなたの力と血を少しずつ頂く…。
 私への忠誠を破った罰として…良かろうな』


「……わか…り…まし………た」




バタリッ…


男は気を失ってしまい、
その場に倒れ込んでしまった。







球体が静かに光を落とし


一人の女が水から出てくるように球体から姿を現した。


長い漆黒の髪を持ち、ほっそりとした身体…。


女は静かに男の傍に寄った。





『………………』






その手で男の髪を撫でた。






『何故…こんな姿に…』





女は悲しげな声で男の今の姿を嘆いていた。





黒い雲が晴れ、白い月が現れ
部屋にある大きな窓からすべてを照らし出した。


女はまだ力ないその腕を必死の如く
月に向かって伸ばした。

ユリコ 著