スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

魔法のことば2 (作者:つぐみ)

魔法のことば2 【1】

「おはよう!」
ニコッと僕に微笑みかける君は、いつになく輝いていた。
でも俺の心は曇りどころか雨だった。

今日は大学の卒業式、4年という歳月をともにした仲間たちとお別れの日。
地元に戻るやつもいれば、都会に残りバンド活動をするやつもいる。

−そう俺みたいにね。

九州からでてきた俺は、右も左もわからなくて、都会になかなかなじめなかっ
た。
それは君も同じだった。
東北から出て来て、高層ビル一つ一つに口を開けて見上げてたね。
そんなとき俺らは出会った。

「今日の3番目の曲、すごくよかった」
東北訛りの言葉で、ライブの機材を片付ける俺に話しかけてきた。
「ねぇ、なんて名前?」
「・・・マサだけど」
「よかったら、ギター教えてよ」
「いいけど、あんまり上手じゃないよ?」
「私よりうまいから大丈夫。お願いね」

それから俺らは暇さえあれば一緒にいた。
幸い住んでる家も近かったから、時間を気にせず一緒にいれた。
最初は何言ってるかわからない東北弁も時間が過ぎていくうちに、居心地がよ
くおれ自身も東北弁を出すようになっていた。上京してきてはじめて打ち解け
られた数少ない女トモダチだった。

ライブもいつも見に来てくれて、本当に大切な・・・トモダチ。

それから数ヶ月が経ち、東京での初めての冬が来た。
そんな時、彼女は長期休暇に帰省することになった。

せっかくだから俺も
「いつ帰ってきよっと?」という母の言葉に同情し、帰省することにした。
彼女と出会って初めてのワカレだった。
携帯もポケベルもない時代、本当に離れ離れになってしまったんだ。

つぐみ 著