スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

プールとあの子 (作者:hiyori)

プールとあの子 【1】

歪んだトンネルを転げ落ちていく僕は、君のことを考えている。
視界はぼんやりと霧がかかっていて夢を見ているようだ。もしかして、これは夢かもしれない。
そんなのどうでも良かった。今、僕はただ君のことを考えている。

「プールとあの子」

初めての高校生活での夏休み。焼け尽くような暑さが僕のからだに刺さる。

僕の大切な日々を狂わせた1人の女の子がいたんだ。「篠塚 なつみ」だ。
光に当たるとちょっとだけ茶色に見えるミディアムヘアー。
だけど肌は驚くほど真っ白だ。日に焼けやすいらしく、冬でもクリームをベタベタ塗っていた。
華奢で小柄で。辛いことがあってもそれを絶対に表に出さなかった。

なつみは夏休みが始まってすぐ、僕の近所に引っ越してきた。

僕はいつも公園にいた。友達は皆、初めて彼女が出来たから浮かれているんだ。
ついこの間まで「俺達フリーの仲ってことで、今年の夏もどっか出かけようぜ」と言ってた。
ベンチに腰掛けて、溜め息が増えていく。 何故か嫌な事ばかり頭に浮かぶ。

伏せていた顔を上げると、女の子が立っていた。なつみだった。

「初めまして。私篠塚なつみ。今日引っ越してきたんだ」
僕はその高い声に返事する気にもなれないし、突然何なんだ?という表情をしてみせた後に、
「あ・・・うん・・・。」と情けない返事をした。

なつみは不思議そうに僕の顔を覗き込んで、すとん、と隣に座った。
細い腕が僕の腕に触れる。女の子とあまり接触したことのない僕の心臓は、暴れるような脈拍をうつ。

温い空気が首の辺りを通り過ぎてから、なつみがこう言った。
「名前はなんて言うの?ねえ、友達になって欲しいな?」
「要。」「じゃあカナメ君って呼ぶね。よろしく。」
なつみは僕の手を強く握った。初めて女の子の手を握った。

柔らかくて、ひんやり冷たくて、とても心地良い。

僕の手はじっとりと濡れていたから、少し焦った。

hiyori 著