スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

ワタリ (作者:猫)

ワタリ 【4】

彼とはぐれてしまった、
正確には私が人に流されただけなんだけど。

私には彼が見えているのに、彼は私を一生懸命探してる
「春花ー!!」
ここだよ!!後ろにいるよ!!そう言っても
この街、都会特有の音に消されて届いてないようだった

私は何故かとても不安だった。
こんな人ごみのなかで彼は私を見つけられるんだろうか
いつか、離れ離れになったら私のこと全て忘れちゃうんだろうか
そう思うと早く彼に気づいて欲しくて
この漠然とした不安で涙が出てきそうで
必死で人を掻き分けて、彼の腕を掴んだ。
彼が見つけてくれなくても、私が見つければいい。
「あっ翼っ!!!」
彼は驚いた目をしたけどすぐにその目は細くなって
「良かったー」なんて、言ってくれた。
私は何を不安に思ってたんだろう。彼は彼のままじゃないか
良かった・・・

彼に甘えたいけど、甘えたらきっと困るだろうと思って
強がっていた。
すると急にさっきの不安がこみ上げてきて
その時に「俺、参っちゃったよ」なんて言うから
つい「うん、私も心細かったなあ」と言ってしまった。
駄目だ、やっぱり私演技できないんだなあ

そう思ったその時、彼が口を開く
何故か、不意に淋しくになって泣きそうなまま振り返った
どうしたんだろう私、変だ。
彼の顔を見ると彼も淋しそうな顔をしていた

「あ、私今日早く帰らなきゃ」
なんとなく、その先を言って欲しくなかったから遮ってしまった
淋しい気持ちに任せて発したその一言によって
彼が言おうとしたことを拒否してしまった。ごめんね、

「・・・っ、じゃあもう帰ろうか」
一瞬彼は言葉を詰まらせたけど困ったようにへらっと笑って言ってくれた

彼は何を言おうとしたんだろう??
それは別れの言葉のような気がした。彼が淋しそうな顔をしていたから。

猫 著