スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

リコリス (作者:ユリコ)

リコリス 第2章 『サアヤ・ミラルダ』

目が覚めた誠也は見渡した

周りは幹が太い樹木が何百本も生え並んだ森。
ジャングルと言っても過言はなかった。

自分はさっきまで公園にいたはずなのに…。

ここは一体?と思うばかり…。


とりあえず、どこか抜け道があるはずだと思って
歩き始めた。








「異世界からの使者が舞い降りました」


「お前にもわかったか…」


「はい」


「ならば、お前が迎えに行ったほうが良いかもしれぬが…」


「わかりました。行きます」


「頼む。早いほうが良かろう。運の悪い場所に降りてしまったからな」


「はい、父上」





















「痛ぇ…」


森を歩いてるとそこに生えていた棘のある草に引っ掛かり
脹脛を軽く擦りむいてしまった誠也。


「……ってか本当にどこだよ、ここ…」


「ここは神木『リコリス』が守護する世界『エトランゼ』」


「!?…誰だ!」


周りを見渡しても誰もいない。
静かな森が広がるだけ。


「大声を出してはいけない…。魔物が目を覚ます」


「……魔物?ってか君は誰だよ!」


「上を見上げれば…」


誠也が上を見た。
一本の樹に一人の女性が座って誠也を見下ろしていた。
そして立ち上がり、誠也の下へと降り立った。


「あなたの名は?」


「え……誠也……久賀(くが)誠也です」


「セイヤ………あなたが異世界からの使者ならば、
 私の言葉が通じるはず…通じてるわよね」


「え…ちゃんと日本語に聞こえます…って異世界の使者って何!?」


「通じてるみたいね…話はまた―――」



その女性が何かを言おうとしたとき、
大きな衝撃が二人に襲い掛かった。
樹にとまっていた見たこともない綺麗な鳥たちが逃げ飛んでいった。


『風流防壁!!!』


女性が何か叫んだ。
すると目の前に大きな竜巻が起こり二人を包み込んだ。


「うわぁあ!!!」


「大丈夫よ」


「え…」


「この竜巻が私たちを守ってくれてるからダメージはないわ。
 しばらくここにいて」


「え…ちょっ…」


彼女は竜巻から出て行った。


一体何が今起こっているのかわからない。
誠也は若干パニックに陥っていた。


『神木『リコリス』が守護する世界『エトランゼ』だって!?
そんなの聞いたことがない…。
自分が異世界からの使者!?どういうことだ!!』


するとまた大きな衝撃が誠也まで伝わってきた。
この竜巻のおかげで被害はない。
しかし彼女は大丈夫なのだろうか…。
遠くのほうで酷い破壊音が聞こえてくる…。

いてもたってもいられなくなった誠也は竜巻から飛び出した。
音の聞こえるほうへ走り出した。

近くなるにつれ衝撃も伝わってくる…。

すると森のはずれに彼女を見つけた。
しかし目の前には…


見たこともない生き物がいた。


どう見ても醜い…。獣じゃなくてこれは…魔物…。
生き物じゃない…。
彼女はこの魔物と戦っていたのだ。
よく見ると彼女はところどころ怪我をしていた。
この魔物に苦戦していたらしい。


「どうして出てきたの!?」


「だって心配で…」


「今のあなたじゃまとも戦える相手じゃない!下がって!!」


そう二人で話してると魔物は容赦なく攻撃してきた。


『風流防壁!!』


またさっきと同じ竜巻が誠也を包んだ。


「ちょ…!!」


魔物と彼女の戦いは続く…。
ここは一体本当にどこなんだ!!!


『深海没激射!!!』


彼女は水のような球体を作り出し、光の球体に変え、
それを魔物にぶつけた…。

見事それが命中し、魔物は消滅した。

誠也を包んでいた竜巻も消えた。


「はぁ…はぁ…―――」


彼女は崩れ落ちた。


「おい!大丈夫か!?」


誠也はそばまで駆け寄った…。
酷い怪我をしていた…。大丈夫なわけない…。


「大丈夫よ」


「嘘だ!!こんなに怪我してるのに…。大丈夫なわけない!!」


「……………」


一瞬二人の間に沈黙が流れた…。


「…ごめん。言うだけ言って…何もわかってないのに」


「いいのよ。それよりも無事で何より。いきなり出てきてビックリしたわ」


「だって…一人で出て行ったりするし…何かあったりでもしたら…」





彼女はしばらく誠也を見つめた。





「(彼は本当に異世界からの使者かもしれない…こんなに他人のことをそこまで思えるなんて)」





「とりあえず、私たちの村へ行きましょう。
 すべての話はそこに着いてから話しましょう」


「え…うん」


彼女の突然の口調の変化に誠也は戸惑った。
さっきとは、まるで別人のようだ。

二人は森を抜け出し、1本道に出た。
見渡すと…

大きな火山、空にはいくつか山(島)が浮かんでいる。
そして、今の日本じゃ考えられない緑の森が溢れていた。
これが…『エトランゼ』という世界。
二人は歩き始めた。


遠くを見るといくつかの村が見えた。

誠也は聞いた。


「そういえば…君の名前…聞いてなかったよね?」






すると彼女はすぅっと胸を張り、
顎引き、前を見据えて、こう言った。







「私はサアヤ。サアヤ・ミラルダ」

ユリコ 著