スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ 【35】

扉の前、この扉を開けたら彼がいる、そして私は彼と逝く。
そう考えるとなんだかドキドキしてなかなか開けることが出来なかった
胸を押さえて、小さく深呼吸をして、目を瞑って、ゆっくりとまた目を開けて。
ドアノブに手をかける、今私はこの扉を開けようと―――


「あれ、サオリさん?」
ハッと後ろを、声がするほうを振り返りその声の主を見つけた
階段の下の、下の下の段に私を見上げる翔太が居た
「ナイスタイミング、」と彼は小さくピースを作って笑う つられて私も頼りなく笑った
「開けないの?」「ん、今開ける。」と小さな会話のやりとりをしてガチャガチャっと音がすると同時に世界は広がった。


彼と私は手を繋いで柵のところまで言った
「・・・・昨日はごめんね」と申し訳無さそうに呟く「大丈夫、気にすること無いよ」と私は微笑む


息が白くなった 甘い香りの花はすでにもう、地に落ちてしまったようだった
白い息の向こうから見たサオリさんはとても美しかった
手をより強く握ってお互いの気持ちを確かめ合った
彼女がこっちに優しい哀しい目を向けた 
俺はその目をそらさずにジッと2人して何も言わずに見つめあった

しばらくするとサオリさんはフウッと小さくため息のようなものをついて座ろうか、と言った
柵を背にして俺らは座った コンクリートは冷え切っていて体が冷たくなっていった
けれど変わらず手には彼女のぬくもりが確かにあって、そのぬくもりだけに俺は身を委ねた

「寒いね」「―――うん」「朝まで待てる?」
朝まで待てる―――?その時のサオリさんの瞳を俺は忘れることは無いだろう
キレイで澄んでいて哀しいほど優しかった
朝まで、朝まで待って、俺らは朝と同時にこの地面へ、空へ、降りていくのだ
東の空からは朝陽が 西の空にはまだ微かに残る星たちがぼんやりと見えてとてもキレイなんだろう
サオリさんと見る初めての朝陽、初めての朝のサオリさん。
きっととても綺麗で俺は見とれてしまうんだろうな。
でもそんな彼女を見る暇も無いくらい早く地面にぶつかるんだろう
それはとても哀しい、サオリさんもっと君が見たいよ 
―――・・・でもそれも叶わないんだね
嫌だな、見たいなサオリさん、君が好きだよ。もっといろんな顔を見せてよ
笑って、笑って、ねぇサオリさん―――――・・・・好きなんだよ。

サオリさんと出会ってから俺は何か、変わった。自分でも分かる
なんだか頭がいつもぼうっとする きっとこれは恋だけのせいじゃない。もっと、大きな。


サオリさんの手に僕は熱を感じた
生きてると思った この人と生きたいと思った。

あつこ 著