スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

めざめ (作者:あつこ)

めざめ【12】

雲で見えなかった月が、雲から離れてぱあっと光が降り注ぐようになった
翔太のまだ、幼い顔立ちが鮮やかに映った
私は彼のまばたきに、呼吸する口元に、手から感じる波打つ鼓動に

そのどれもが、一つずつドキドキしてあまりゆっくり顔を直視することは出来なかった。

このまま、ずっとこうしていたい―――、なんて間抜けな考えが浮かんできて
時が止まればいいのに、とかずっと傍に居て欲しい、とか
まるで少女漫画の中に出てくる「ヒロイン」のような想いが溢れて来て。

ああ、何で私はこの人に、翔太に出会ってしまったんだろう?
何で、この日に、この場所で、こんな2人が出会ってしまったんだろう?

出会わなければ、何も知らないまま死ねたのに。
こんな気持ちに気づかないまま、死ねたのに―――

翔太に出会ってしまった、
こんな形で出会わなければ、

もっと単純な方法で、――例えば、エレベーターの中でとか渡り廊下でとか
そんな風に出会えてたのならこんなに苦しくなくて済むのに。

どうしよう、私もしかしたらこの人のこと凄く好きなのかもしれない。

この人無しでは生きれないのかもしれない、
一緒に、ここを飛び降りて空を飛ぶことが出来るのなら…

手を握っている間中、
苦しくて、切なくて、もどかしくて、困った。
お願い、早くお月さま。
雲でその顔を隠して、
月の光でこんな顔が翔太に見られちゃう――。

いくらそう祈っても月は雲に隠れることなく、眩しいくらい鮮やかな黄色で私たちを染めていった。

あつこ 著