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ホタル  [作者:みかん]

■ 1

桜が咲いて散り始めた日。少しの風でふぶきのように見える。

この出来事は夕方に起こった。
俺がボケ〜としていて知らない女とぶつかってしまったからだ。
ぶつかったときは一瞬頭がパニック状態になり、どうすればいいのかが分からなかったから慌てて“ごめんなさい”と謝った。
そしたら、
「こちらこそごめんなさい。慌ててたから周りに気が配れていなかったみたい。」
助かったぁ〜と思いながら安心は出来なかった。
そういう優しそうな人に限って裏がすごく怖いから。
「あっ……、はい。」
こんな返事で良かったのか。
「ぶつかったときに謝ってくれる人ってめずらしい。わたしの周りじゃほとんどいないから。
この街に来て良かった。おととい引っ越してきたばかりだからわたしの家しか知らなくて。あっ、余計な話をしてごめんなさい。」
笑顔が可愛いし、精神的に大人っぽい。
俺こそ、あなたと出会えて良かった。
「大丈夫だから。気にしないで。そう言ってくれるとうれしい。」
何でこんなことしか言えないのか。バカらしい。
「あなたといると気が楽になれる。」
優しくてほんわかした雰囲気に包まれながら話は続いた。

――「時間は?」
この一言で雰囲気はガラリと変わってしまった。
言わない方が良かったか……。
「あっ! 急いで帰ってくる予定だったのに。お母さんに怒られる。あと、話につき合わせてごめんなさい。」
「楽しかったから。安心して。」
「すいません!」
俺は手を振った。
それに気づいてくれたのかテレパシーなのかは分からないが答えをくれるように手を振ってくれた。
「もし会えたらいいね。」
会えるといいな。どこかで。
「そうだね。」
夕日を背にうけながら彼女は走って帰った。

――夜になって。
“名前聞けば良かった!”
いまさら気づいても遅い。
俺の頭の中はあの子のことでいっぱいだった。
“もう会えないのか”
この気持ちがあの子のことでいっぱいのはずなのに、頭の中をよぎる。
気になって眠れなかった。眠いはずなのに

 



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