一杯のコーヒー [作者:新藤 アキ]
■第1章−1
人々はゆったりと歩き、戦争など忘れさせてくれたような穏やかさだった。
早朝、大きなカバンを持った一人の少年がレンガ道を歩いていた。
「ここはいいな…落ち着いてて」
何も考えず、町並を見ながら歩いていた。
曲がり道を曲がったとき。
「あっ・・・・!」
「えっ・・・・わっ・・・・!」
びしゃっ・・・・
・・・朝から人とぶつかってしまった。
ぶつかった少年は驚いて、何もいえない状態だった。・・・私もそうだった。
私の持っていた水が少年にかかってしまっていた。
私が動揺してなにも言えない間に少年は行動を始めていた。
ハンカチを持ち、少年が濡れたところを拭いている間、私は状況が飲み込めず、蒼い目を大きく開いていた。…と思う。
また、小さな音が静かな道に響いた。
パリン。
「・・・なに?これ・・・・」
少年が不思議そうに音がした足のほうを見る。
そのとき私は、視界がぼやけていたのに気付く。
「あっ、それ私のメガネなんです・・・」
二人とも申し訳なさそうに頭を下げる。
「ごめんね。ボクが気をつけていなかったから・・・・メガネはボクが弁償するよ。おいで」
私は驚きを隠せなかった。なぜなら、今までメガネを弁償するなんていってきた人はいなかったからだ。
「えっ、いいです、私が買いますから。では…」
行こうとしたところを服を引っ張られ、止められる。
服をつかんだまま、少年は言った。
「いいんだよ、ボクが悪いし・・・・しかも…君、フラフラしてるでしょ?」
確かに私は足がおぼつかなかった。メガネがないせいで見えなかった。
少年が気を使ってくれるのを受け取り、そのままメガネ店へと連れて行かれ、すぐにメガネを作ってもらった。
私がメガネを選び、視力をはかっている間に少年がお金を払っていた。
メガネ店から出たとき、私は思った。
「今日はありがとうございました。お礼に、珈琲をごちそうします、ついてきてくださいね」
「いいの?・・・・じゃあ、ついていきます」
少年は申し訳なさそうに微笑んだ。少しだけ顔を赤くして。
私は少年が迷わないように、歩きながら話をしていた。
「私の名前はユーリ・・・っていうの。君は?」
「ボクはシオン。まだこの町に来たばっかりでね、よく分からないことが多いんだけど、よろしくね」
シオンは優しかった。緑の目をこちらに向けては、微笑んでいた。
私も微笑んでいた。いつの間にか。蒼い目をシオンに向けていた。
風が吹くたび、シオンの少し長い黒髪はゆれていた。
私の肩くらいまでの藍色の髪もゆれていた。
シオンといろいろなことを喋っている間に、私の姉が経営しているお店についていた。
なぜか、シオンといた時間がとても長く感じた。
↓目次
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