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冷たい頬 [作者:那音]

■1

「あなたのことを深く愛せるかしら」

  幼い頃、君がそんなふうに言ったことを覚えている。
  愛という感情をうまく理解していないようなころのことだから、多分その言葉は悪戯に愛という言葉を使ってみただけのものだったんだろう。
  でもその言葉は幼さの割には深い意味を持っているように思えて、僕は今でも、その言葉を覚えているんだ。

「ゆうくん?」

  ふと名を呼ばれて、我に返る。
  目の前では彼女が僕の顔を覗き込んでいた。

「どうしたの? 疲れた?」

「そりゃさすがに疲れてるけど」

「何言ってんの。このぐらいで疲れてたら私の荷物持ちは務まんないよ!」

  言われると同時に脛に蹴りを入れられて体勢を崩し、慌てて手から落ちかけた荷物を持ち直す。
  その間に彼女はさっさと先に行ってしまって、僕は今日何度目かになるため息を落とした。
 
  ――僕と彼女は、幼なじみだ。

  家が近所で、物心が付いたころからずっと二人で遊んでいた。
  小学校も中学校も高校もそして大学まで同じところで――相当な腐れ縁だと思う――ずっと仲良しだった。
  まあ仲良しと言っても、いつだって活発な彼女が好き勝手に行動して、彼女を心配してついていった僕が振り回されるという感じだったんだけれども。
  今日は彼女の買い物の荷物持ちとして、彼女と一緒に街にいる。
  そしていつも通り、彼女に振り回される僕がいる。

「ゆうくーん! おいてっちゃうよー」

「……はーい」

  そうして僕はまた、彼女の後を追うのだ。



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