スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

愛のことば3 (作者:さなぎ)

愛のことば3 【5】

「・・・ねぇ、あれって・・・」
「兵士だ」
「どうしようか・・・」
「このまま直進は出来ないから・・・回り道するしか・・・」
「でも、そっちにも兵士がいたら・・・」
僕は、あたりを見回してみる。
明かりは、ある一部のところにしかない。

「大丈夫、きっと。
もし人がいるならば、これだけ暗いんだから明かりがあるはずだ。」
「・・・それもそうね」

なんとなく、安心して張り詰めていた空気がすっとゆるんだ気がした。


あの、国境を越えれば・・・。
何十メートルか先にある、あの線を越えれば・・・。
自由なんだ。





今から考えれば、あのとき、もう少し周りのことに気を使っていればよかったんだ。


けど、その時の僕たちは自由になれることの喜びが大きすぎて、自分達で考えているほど注意深くはなっていなかった。





上手くいかなければ、死ぬということすらも忘れていたのだろう。







目の前に、国境がある。

越える瞬間は、意外とあっさりしていた。でも、もうこれで自由なんだ。僕たちは、生きていける。


僕は後ろを振り返り、彼女を見た。
彼女は、僕が見ているのに気付きにっこりと笑ってきた。

「越えたね」
「うん」


そう話した後に、銃声がした。

何の音かわからないままに、彼女が倒れた。

さなぎ 著