スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

eternal2 (作者:ナナ)

手を伸ばす 【6】

 家の窓からは、先日と同じようにやはり光が漏れていた。
「アオイ…、無理してなきゃいいんだけどな…」
 鍵を開けて中に入ると、電気はつけっぱなしだったが、それはほんの一部に過ぎなかった。つまり、それ以外は消えていた。
 靴を脱いで家に上がるが、先日とは明らかに空気が違っていた。
 リビングまで入ってみると、そこにはアオイが倒れていた。
 掃除の途中だったのだろうか、掃除機が空気を吸い込んでは吐いている。
「アオイ!!」
 駆け寄って、抱き上げる。息をしてはいるが、意識は戻りそうにもない。
 どうすればいいのか、頭が混乱して冷静な判断が出来ない。
 ようやく思いついたのは、「救急車を呼ぶ」ことぐらいだった。
 指は幾度も縺れて、思うようには動かない。
「アオイ…起きてくれよ……」
 とにかく呼びかけてみるが、反応は返ってこない。
 やがて、赤いランプとサイレンが近づいてくる。
 その救急車に乗せてもらい、病院にまでついていく。
 手を握って、祈るが握り返してくれることは無かった。

 ICUの外でアオイを待っている間、近寄ってくる人物がいた。
「あ、……ミノリ先輩…」
 ミノリは大学のサークルの先輩だった。
「ミノリでいいわよ」
 そう言いながら、缶珈琲を差し出してきた。
 黙ってプルタブを押し上げる。
 その黒い液体を喉に流し込むと、身体の底から熱が湧き上がってくるが、心までは温まらない。
「ミノリ先輩は…、この病院で何を?」
 白衣を着ていることから医師だということは分かるが、今、ICUの外にいるということは、内科の人間ではないのだろう。
「ああ、精神科の方だから直接は関係ないわね」
 関係ない。それは、アオイとの接触は無い、ということだろう。
「ところで、ミノリ先輩はどうして俺だって分かったんですか?」
 ミノリとは大学以来で、連絡などは一切取っていなかった。だから、自分の婚約相手が倒れたなんて連絡するわけが無いし、第一、救急車を呼ぶなら119番だ。
「この病院に搬送されてきた時、あなたが救急車から降りてきたのが見えたの。私はそのときちょうどすれ違ったのよ」
 そういうわけだったのか。ユウトはそう思って、また一口珈琲を飲む。
 ユウトは珈琲が苦手だった。しかし、今ここで飲んでいるのは、何処かに自分を律したいという気持ちがあったからだ。
 ユウトは、赤く光る手術中のランプをただただ見つめていた。

ナナ 著