スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

マリンブルーの先 (作者:ひかる)

マリンブルーの先 【4】

それからは、暇さえあれば「立ち入り禁止エリアの前」まで行き、女の子を待っていた。
「進入しない」それが二人のルールだった。

誰かを待つのは不思議と退屈ではなかった。
今日は何を話そうか考えたり、昨日の出来事を思い返したり、相手のことを考えたり…。
ふと気づいたことがあった。あれ、あの子の名前って何だ?


「お待たせ」
ちっとも申し訳なさそうになく、ひょっこり現れた。
僕は間髪を容れず、「あのさ!」と飛びついた。
「君の名前ってなんていうの?」
「ルチカ。」
今さら?と彼女が笑いながら駆け出すもんだから、追いかけたくなった。
少しずつ増えていく二人だけのルール、二人だけの秘密。

特別な感触がした。

大事に抱えないと、水風船が一瞬のうちに割れてしまうような感じがした。



「今日はパムにこれを見せてあげる」
出されたのは、古い手のひらサイズの木箱。中には鍵が入っていた。
「これは何?」
「私にもわからないんだけれど、この森のどこかに扉があってそれを開けることができるんですって。
でも、実はこの鍵は森の住人以外には知らせてはいけないし、見せてもいけないの。
ね、持っていてくれない?」
「え…なんかこわいよ。」
「何弱気なこと言ってるの、今さら。」
ひょいっと軽く渡されてしまった。

しかし、ルチカも二人で秘密を共有したい、
ただそれだけを思って渡してくれていることは伝わってきていたから、少し嬉しかった。

ただ、その鍵がとても重みのあるものだとはまだ知らなかった。

ひかる 著