スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

マリンブルーの先 (作者:ひかる)

マリンブルーの先 【1】

僕の目の前には、Y字路がある。


「闇に消える」か、「生まれ変わる」かだ。




闇は、何が待ち受けているのかわからない。
僕の想像によれば、きっと暗くて、目を開けても何も見えず、見えないことが当たり前で
底なし沼のような恐怖に競りたてられる気がする。
君は、生まれ変わることによって己の存在が消えてしまうことを恐れていた。
そして、闇の中へ消えた。

しかし、恐れることはない。生きていた事実が消えることはないと僕は思う。


僕は今、闇のほうから君に呼ばれている。

僕が進む道は決まっているはずだった。
いつも笑顔が素敵だった優しい君が呼んでいる。迷わずに、手を伸ばせばいい。
…果たして、そうだろうか?

本当は少しこわい。コドモっぽいと思われても、これはしょうがない。
先がどうなっているのかわからない世界に足を踏み入れる勇気ほど、勇敢で勇ましいものはない。
そして、自分に素直な力によって生まれる一歩となり、それと比べられるものはない。

僕はこわいのだ。
もしかしたら、僕が粉々に消えてしまうかもしれない。塵さえ残らないかもしれない。
ぼくはこわい。でも君に会いたい。



この世界は、死んだあとの魂と抜け殻になった身体をもう一度合致させるためにあると言われている。
お昼に目覚めて、田畑を耕し夕方には仕事を終える。
夜は、小さな小部屋で一人の時間を過ごす。
そして気づけば、また昼になっている。

この世界の生き物は、夜が明けるころが近づいてくると激しい睡魔に襲われるのだ。

だから、ここへ来て一度も朝を迎えたことがない。
どうやら、僕らの日々には夜明けの時間が与えられていないようだ。
噂によると、「夜明け」を迎えてしまった者は鬼に喰われ、その後どうなるかは全くわからないらしい。
こわがりの僕だから、好んで睡魔に打ち勝とうなんて思いもしない。
第一、この睡魔を乗り越えられるやつなんているのだろうか?
死んだかのような深い眠りに落ちるのに。
ま、一度死を迎えた僕がいうのもなんだが…。

ひかる 著