スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

プールとあの子 (作者:hiyori)

プールとあの子 【2】

それからのこと、僕となつみは暇な日に顔を会わせた。
夕暮れ時の公園で一緒にいるなんて、何だか恋人同士になった気分だ。

ある日、なつみに図書館に誘われた。バスで数十分で着く所にある。
なつみは本が好きで、公園のベンチでも本を読むことが度々あった。

水色のチェックのワンピースに、白のショルダーバッグを持って駆けてくる。

「カナメ、おはよ」「あ・・・あぁ」

僕はこの頃からなつみのことを好きになりかけていた。
でも、気付かれまいと必死に口元が緩むのを抑えた。
なつみの笑顔を見ると、こっちまでトロンとなる。

バスの中は意外に空いていた。後ろの席に並んで座った。
「後部座席って、ちょっと高くなってるから好き」
気持ちは分かる。見下ろしてる感じというか、普段では無いような感覚。

「分かるよ、それ。」と控えめに同意の声を出してみた。
僕はハッキリした気持ちを相手に伝えるのが苦手なんだ。よく、優柔不断だと言われる。

図書館に着く。なつみはここのカードを持っているらしく、僕も作ってもらう事にした。

「あ!これ、この本が読みたかったんだよね」

早速小走りに僕のところに戻ってきて、目を光らせて言った。
「心の読み取り方」という本。なつみは心理学に興味があるらしい。

「カナメは読まないの?」
僕は活字が苦手だ。やんわりと伝えると、
「へえ、そっか・・・。」
ちょっぴりつまらなそうに口を尖らせたので、ジュースを奢ってあげることにした。

この図書館は今年作られたばかりでどこか木の匂いが漂っている。
温度も丁度良い。

買ったジュースをなつみに手渡すが、こっちを見ずに本に熱中しているようだ。
手だけが動く。 目線は紙のページを突き抜ける。

変わった子だな、と思っていた。きっとマイペースなんだな。
そのままゴクゴクとジュースを飲み干した。白い喉が眩しい。

hiyori 著