スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

君に触れたい、君に触れない (作者:仲野フレン)

君に触れたい、君に触れない 【2】

その日を境に、周りから見たら微妙な、でも、私たち2人には絶妙な立ち位置で付き合い始めた。

「症状」さえなければ、彼は誰よりも優しくて、私をときめかせた。

私はそれに答えられるように、「間接的な愛」を彼に注いだ。

「今日もうまそうな弁当だね」

彼はウェットティッシュで手をごしごしとこすりながら言う。彼にとっては、自分の体の一部分であろうとも、自分を恐怖させるものだった。

「うん、今朝も早起きしてがんばったよ!!たくさん食べてね」

「偉いえらい!それじゃあ、いただきます!」

彼は私の作ったお弁当を残さず食べてくれる。私と付き合う前は、自分の親が作ってくれた弁当か、コンビニの密封されたパンや惣菜しか食べられなかったというから、これが彼なりの優しさだ。

でも……。

「ねぇ、他の子にも優しいの?」

私はここ最近ずっと心に引っ掛かっていたことを尋ねた。

「え?」

「みんなに優しいよね。なんかやきもち」

「そんなことないよ!俺は、」

彼はきっぱりと言う。

「お前だけを愛してるよ」

「……だから、私のことお前って言うの、やめてよ」

私は顔が赤くなるのを感じた。

「でも……ありがと」

恥ずかしかったけど、嬉しかった。

嬉しくて、思わず、わがままを言ってしまった。言ってはいけない、わがままを。

「いつか君と手をつないで歩きたいな。できるといいね」

「……」

私は言った後ではっとした。彼がうつむいてしまったから。

普通の恋人なら当たり前のことなのに、私にとっては叶いそうにないお願いごと。

「……ごめん……」

私と彼は黙ってしまった。

沈黙を破ったのは彼だった。

「……手、つなごうか」

ぼそっと彼はそうつぶやく。

「え?」

「帰り、手つないで帰ろう。……大丈夫、もう何年も治療してきたし」

「だめだよ。君に無理してほしくない」

彼の苦しむ姿は……初めてのデートの時に見たあの苦しそうな顔だけは……もう見たくない。

でも、彼はいつにも増してまぶしい笑顔で言う。

「ホントに、大丈夫だから」

「私が大丈夫じゃない」

私は思わずきつい言葉になってしまった。

「あ……ごめん……」

私は自分の矛盾した発言を反省した。

「さっきから私、わがままばっかりで……でも、でも……」

「こっちこそ、ごめん……」

そう言ったきり、お互いまた黙ってしまった。

何を言っても彼を傷つけそうで、私は何も言えなかった。

「……あ、もう時間だ」

彼は立ち上がる。

「気分悪くさせてごめん。じゃあ、いつものところで!」

帰るときはいつもの場所で待ち合わせして一緒に帰る。それが私たちの決めたこと。

「……うん!」

私は無理やり元気をふり絞るように、そう答えた。

仲野フレン 著