スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

桜並木のルルルララ (作者:野谷蔦けい)

桜並木のルルルララ 【6】

屋台と屋台の間を真紀は精力的に歩き回り、隣に付き添うぼくの財布から
は百円玉が倍の早さで
消えていく。

 屋台からの仕入れに満足すると、真紀は桜の木の通りを縦横無尽に動き回っ
た。真紀が歩道のベンチが
空いていることに気づき、ぼくたちは手早く座る場所を確保する。

 ぼくの隣にすとんと腰掛けた真紀は、ラムネの瓶をジーンズの細い太ももの
間に挟み込みこんだ。
リンゴ飴を持った左手で焼きそばのパックを保持しながら、真紀は器用に焼き
そばを頬張りだす。
ぼくもプラスチック製の赤い突起物を押し込み、ビー玉をラムネの海に解放し
てやった。

「ソメイヨシノだよね。ここの桜って」焼きそばをラムネで流し込み、ごくり
と喉を鳴らして真紀が言った。

「そうみたいだな」

「ねえ、桜の花言葉って知ってる?」

「んー、知らん」

「ソメイヨシノの花言葉は『優れた美人』なんだって」

 そう言って真紀は長い脚をじたばたさせ、ぼくの顔を覗き込むようにして小
粒な白い歯を見せた。
どうも真紀のその表情がむず痒く感じ、ぼくは真紀から視線をずらす。

「良くそんなこと知ってたな」

「国語の過去問の評論文にね、そういう話があったの」

「ふーん」

「で、ぴったりだと思わない?」

「何が?」

「にぶい男。優れた美人。つまり、私のこと」

「どこまでも傲慢な女だなあ。しかも、歯に青のりを貼り付けた奴が言っても
ただのお笑いだし」

「えっ、うそ」

「うーそ」

「最悪……そんなんじゃ女の子にもてないよ」

「それは、ついさっきまで自分でもそう思ってた。でも、お前の話によれば吉
井さんには、
ぼくはもてている」

「本当に、あんたのどこが良いんだろうねえ」

「人生なんて不条理なことばかりらしいから」

「ほんとうに、わからない」

「高校に入学してから、せいぜい、モテる性格になれるように努力してみる
よ」

野谷蔦けい 著