スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

猫になりたい (作者:茉莉花)

猫になりたい 【3】〜完結

そこには、夕べ現れなかった「あのコ」がいた



いた、というか横たわって。
こんな寒空の中、いつからここに。


一歩前にいた彼女は無言で見つめ、僕は黙っていた。
手で口のあたりを覆い、少し震えているようにも見えた。


「……寒かったでしょう」


ぽつり、と彼女が呟くと同時に涙が。

僕は黙ったまま「彼」を抱き上げ、黒いダウンで包んだ。



部屋に戻ると君は黒いダウンごと「彼」を腕に抱いた



君に会うため、この部屋に来るため、「このコ」は走って来たんだろう
砕ける瞬間、きっと彼女の事を想ったはずだ

君の姿を見て、いろんな情景が頭に浮かぶ

「…雨降らないうちに行かなきゃね」
「…そだね」

霊園はあるいてすぐそこ。
まだちょっと、もうちょっと、ここにいよう。


薄暗い部屋の窓際、寝てる子を抱いてあやすような君の姿


「このコ」はきっと一生彼女の胸の中に残っていくんだろうな…
そうぼんやり考えてたら、ふと思ったんだ


不謹慎かもしれないから、口には出さないけどね。









『猫になりたい』

茉莉花 著