スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

青い車 (作者:53)

青い車 【9】

ラジオから聞き覚えのある歌が流れた。爽やかで、耳に残るメロディ。
めずらしく僕が鼻歌など合わせていたら、
「この歌、心中のことを歌った歌らしいよ」と彼女が言った。
「へえ」
「どう思う?」
「あまりそんな感じはしない」
「そうだね。何だか、聞いてて優しい感じがする」



あの日見た親父の死に顔は、未だ胸にこびりついていて、消えたわけじゃない。
だけど、僕はもうそれに怯えることなく生きていけると思う。
仕事休んで、ハンバーガー食べて、海行って、他人が聞けばあきれそうな思い出を、今ならきっと大事にできる。


思い切って、繰り返しの外側に飛び出して、無邪気な気持ちで、お互いが笑って過ごせる時間。
そういうのを大事にして、祝福して、生きてみよう。
彼女と生きる人生、今更だけど、やっとそう思えるようになったんだ。


僕は、生きている。

そうして、今、変わっていく。


・・・
峠道をこえて、空がひらけた瞬間、
彼女が素っ頓狂な声をあげた。

「海だ!」


END.

53 著