スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

青い車 (作者:53)

青い車 【8】

目指す海は、車でもすこし遠いところにあった。
FMをかけながら、僕らはまったりとドライブした。

車窓を流れる景色みんな、夏を反射してきらきら輝いていた。
みんな、生きていた。

同じように、呼吸して、存在していた。続いていた。繰り返していた。

それがたとえ、苦労や苦痛に満ちた繰り返しであったとしても、
みんなとりあえずそこに存在していて、その繰り返しを受け容れているのだと思った。
それが、貴重なことだと、思えた。
それが、貴重なことだと、僕に思わせてくれる人がずっと側に居たということ、
僕は今まで忘れてしまっていたのだ。


・・・
時折、ハンドルを持つ手が、チカチカ光る。
左手指に嵌めたものが、日光を反射して、今更に自分の存在を主張している。

そうして過去を振り返ってみるが、こんなちゃちな”しるし”があったからって
”さあ、これでふたりは永遠の愛”
”さあ、これでふたりは変わらぬ想い” ・・・そんなもの、あったもんじゃなかった。


僕には僕の思惑があり、彼女には彼女の思惑があり、
お互い、時に嘘をつき、意図的に相手を無視し、黙りこんだ。
慌ただしい生活の中で、僕が彼女の足を引っ張ることもあれば、彼女が僕の足を引っ張ることもあった。
約束は錆び付きかけていた。

それなのに、今頃になって、また輝きだすなんて。
一本取られたみたいで、なんだかちょっと悔しいけれど。
いいさ。受け容れよう。

53 著