スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

青い車 (作者:53)

青い車 【4】

そっと手を触れたら、思いのほか、彼女は冷たかった。

!また、親父の死に顔がフラッシュバックして、背中を悪寒が這い上がる。


どうして慣れ親しんだ顔に恐怖し、目をそらす?
どうして親父と彼女を重ね合わせる?

・・・。
・・・。
・・・いや、その顔に恐怖しているのではない!
僕は僕の暗いぬかるみに手を突っ込む。

本当は僕は、解っている。
あのとき親父は既に、僕の知らないものを身体にまとって、僕の知らないものになっていたんだ。
僕がまだ知らない暗闇の世界。
あらゆるものの終着地点。

・・・生きていない、ということ。
・・・
・・・その本質的な恐怖に、あれから僕はずっと、怯えているんだ



「・・・。手。冷たいよ」
眠ってるはずの彼女が、目は閉じたままで、そっと呟いた。

「・・・・・・」
いつのまにか僕は、彼女の首筋を両手で掴んでいた。
手のひらが、じっとりと気持ち悪く濡れているのを感じる。

「爪、立ってるし、アイタタ・・・」
寝起きばなのはずなのに、彼女の次ぐ言葉はやけに明瞭だ。相変わらず目をつむったままだけれど。
いや、そんなことはどうでもいい。
彼女は・・・生きている。

53 著