青い車 (作者:53)
青い車 【3】
ベッドにそっと近寄った。
彼女の寝顔をじっと眺める。
彼女は、彼女だ。親父じゃない。
今日明日に呼吸の止まることは無いだろうし、もう少ししたら目覚めて、いつも通り仕事に出るだろう。
なのに、脳裏によみがえるこの映像は何なんだ?
こみあげる不安感を、力んで誤魔化す。
親父はもともと、弱っていたらしかった。
長年の不摂生がたたって、太い血管に爆弾を抱えていたそうだ。
僕が自分のことで手一杯になってる間に、親父は、いともあっけなく逝ってしまった。
喪主も兄貴がやっていたし、僕が葬儀で忙しくすることはそんなに無かったと思うのだが、
それでもこっちに戻ってきたとき、僕は疲れきっていた。
そう・・・それからだ、彼女の寝顔が、見れなくなってしまったのは。
・・・
敢えて、彼女の顔を凝視してみる。
彼女は相変わらず規則正しい呼吸をやめることが無い。
生きている。健康だ。
ただ、目元には以前よりも疲れが滲んでいるような気がした。
彼女の細く白い首筋が、いっそう細く、いっそう白くなっているような気がした。
53 著