スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

ひなたの窓はどこに (作者:仲野フレン)

ひなたの窓はどこに 【2】

女はただの人間ではなかった。彼女はかつて「シケンカン」と呼ばれ、世間から忌み嫌われた者のうちの一人だった。






「シケンカン」という単語が表すとおり・・・彼女のもととなった卵と精子は、『セル』―世間からは試験管と揶揄された―の中で受精され、以後10ヶ月と10日もの間―昔からこの国で胎児が母体にいるとされる期間―『セル』の中で育った。要するに彼女は科学実験で誕生した人間だったのだ。

「シケンカン」は彼女を含め18人いたとされている。

「シケンカン」は『セル』から出た後も、自然に生まれた子のように順調に育つかのように見えた。

しかし人間として重要なことが欠落していた。

成長するにつれて感情のコントロールができないことが判明した。

全く笑うことができず、ささいなことで怒り出したり泣き出したり、しまいには暴れだした。

それが幼児のうちだけならまだよかったのだろうが、成長しても治らないどころか感情の暴走は激しさを増していった。

そして「シケンカン」が『セル』を出てから18年がたった時、とうとう「シケンカン」のうちのひとりが、民間人15人を無差別に刺し、5人を殺害、10人に重軽傷を負わせるというおぞましい事件を起こした。

「シケンカン」の危険性を重く見た当時の政府は「シケンカン」をこの世から葬り去ることにした。


***


政府は「シケンカン」18人を―例の殺人鬼も含めた18人を―スペースシャトル発射基地に呼び集めた。

「宇宙で科学実験を行う」

という嘘の呼び出しに18人全員が了解し集まったのには、政府の人間も驚いたようだ。

「今からこのスペースシャトルに乗り込んでもらう」

「ちょっと待ってください」

そう言ったのは銀髪の女だった。首にはなにか英数字が刻印されているが、その銀色の後ろ髪で末尾の15という数字しか見えない。

「なんだね、ナンバー15」

「訓練もなしにいきなり宇宙へだなんて・・・それに」

そしてナンバー15と呼ばれた女はきっぱりと言った。

「俺にはちゃんとした名前があります。番号で呼ばないでください」

「なにぃ、シケンカンのくせに生意気なことぬかしやがって」

官員がかっとなって言う。

「しかも女なのに自分のことを俺だってさ、ホントこれだからシケンカンは」

別の官員があざ笑いながら言う。

「んだとこるぁ、俺が自分のことなんて呼ぼうと勝手だろうがよぉ!」

女はいきなり怒り出した。これがシケンカンの特徴の一つである。挑発を受け流すことができず、かっとなってしまうのだ。

「な、なに!ほ、本当のことを言ったまでだ!」

「いちいちうっせぇんだよ、お役人だからってえらぶりやがって!とっとと説明せろや」

「い、言われなくてもわかってる!!」

女の迫力と、女の後ろに黙って立っている例の殺人鬼に恐れおののいたのか、官員たちはしり込みしがながら言う。

「このシャトルの中にはカプセルが人数分登載されている。シャトルが宇宙空間までたどり着いたら、このカプセルに入って宇宙空間へ出てほしい」

「強力でなおかつ機械にダメージを与えない磁力を使って、地上とほぼ変わらない動きができるようになっている」

官員はさっきとは打って変わって淡々と説明した。

「あーあーあーわかったよ。で、俺たち危険人物に何させる気?」

女がそういうと、官員はニヤリと笑った。

「これから60年間宇宙をさまよってほしい」

仲野フレン 著