スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

潜水 (作者:颯)

潜水 【1話完結】

夢を見たんだ

不思議で素敵で


残酷な。





気温31℃

蒼い空と巨大な入道雲


僕は25メートルプールの脇に立っていた


白いYシャツが汗で肌に貼り付いてくる


この暑さから解放されたい

それだけの理由で僕はそのままプールへと飛び込んだ


バシャッ・・・




泳いでも泳いでも底にも壁にも何故かたどり着けない

水の中だというのに呼吸もまったく苦しくはならなかった

まるで広い広い空を泳いでるかのように


しばらく潜り泳ぎつづけていると

底の方に何かが見えてきた


まるで甘く香る蜜のように広がる金色の草原

あまりの美しさにただ見惚れる

そしてまた空を泳いで行くと

金色の間に垣間見える鼠色

巨大なビルの廃墟が所々に建っていた

僕は鳥のようにビルの廃墟を避けて泳いでいく


不思議なことに周りの質感は決して空気ではなく

水そのもの

髪や服や草原の葉はゆらゆらと水に靡いている



ドキュンッ・・・


突然の銃声音

遠くを見てみると黒い人影が見えた


ドキュンッ・・・ドキュンッ・・・・

僕を狙って撃っている


でも、やはり水の中だからなのか銃弾はゆっくりと飛んでくる

避けるのは容易いことだった


弾を避けながら僕は銃弾の持ち主へと近づいていく

それにつれ姿が明確になっていく

持ち主はどうやら子供のようだ

彼は僕が近づくにつれ脅えたような表情になっていく

手が震えているのだろう、ピストルさえ上手く撃てていない

僕は彼のピストルを掴んだ



あぁ・・・・



彼は僕だった


幼くて弱くて優しくて何も知らなかった

子供の僕



僕は脅えた僕の頬に優しく触れる



「許せないんだろう、君は」


約束を破った僕が

変わりゆく僕が

忘れゆく僕が



僕は僕からピストルを取り上げ

銃口を彼の口の中へねじ込む


「ごめんな」


でも僕は、この僕を消さなければ進めない



銃口を咥えた彼の口の端が上がる

右腕を後に回し


出てきたのは

もう一つのピストル






銃声がこの水の世界に鳴り響く






そして僕がこの世界で最後に見た景色は


夕焼けのような紅い紅い空だった。

颯 著