スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

黒猫の宴 (作者:香夜)

黒猫の宴 【3】

4年前には戻れやしないって、戻っちゃいけないって頭では
分かってるのに、
あたしはあの日から一歩も進めずにいるんだ―・・・



「ただいまー」
玄関の引き戸の音とほぼ同時に響いた、あたしの声。
それに気づいてか、家の奥から黒い物体が少しずつ近づいて来る。
「ナツ、ただいま」
物体の正体は『ナツ』という黒猫。あの日、あの男の子と一緒に
見つけた猫だ。
あたしはナツの頭をポンポン、と軽く叩いてから、家に上がった。

すると、台所から母が出て来た。
「おかえりー 
 おそうめんしとるけど食べる?」
「ホンマ?食べる食べる!!
 ・・・あ、でも先にシャワー浴びるわ、もーベットベトやけん」
「ん、分かった
 用意しとるけん」




冷たい水を頭っから浴びた。雫が次から次へと生まれては落ちていく。
でもあたしにはその雫らを見送る暇がなく、
ひたすらあの夏を思い返していた。




会えもしない人の影ばっかり追っている。



いつかは見つけられるんじゃないか、追いつくことが可能なんじゃないか
・・・その影を踏める日が来るのではないか、と。




ただ、ひたすら・・・

香夜 著