スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

黒猫の宴 (作者:香夜)

黒猫の宴 【2】

「“黒猫を一緒に拾うてくれた男の子”ぉ?
 み、深咲まだほんなこと言よったん??」
「ほ・・・ほなって、あれ以来会っとれへんし
 ・・・気になるんやもん」

7月末・・・中学生になって2回目の夏休み
もうすぐ、太陽に負けんばかりの向日葵が咲く頃。

「はぁ・・・アンタ何年引きずっとんよ」
「でも・・・」

あたしは友人の涼子と陸上部からの帰りにアイスをほおばっていた。
肩には、暑さの余りかタオルが掛けられていた。

「なんなら今度、ええ人紹介したげよか?」
少しおどけながら、涼子は言った。
「けっこうですー」
あたしは口を尖らせた。

「あ、そう。
 でも、こんなちっぽけな島にもええ人けっこう居るんよ?」
と、やっぱり勧めてくる。
そっか、とだけあたしは短く返した。


それからしばらく経って、涼子と別れた。


車も何にも通っていない道のド真ん中、あたしはひとりふと空を仰いだ。
そこには“これでもか”、と云うほどの“蒼”が果てしなく広がっていて、
いつもならその上に被さっているはずの“白”は今はなかった。

今度は前に目をやった。
遠くにある地面(アスファルト)からは、ゆらゆらと
陽炎がたっていた。

香夜 著