スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

テレビ (作者:ひかる)

テレビ 【10】

次元空間を、小舟に乗って、もとの世界へと戻ってきた
ママの世界へと帰ってきた。
あの小舟がボロっちかったらよかったのにな、と美加は思った。
…だって、その小舟が壊れたら、ファーラーの赤ちゃんが見られると思ったから。
いけないな、私。向こうに帰るって、デニーに誓ったのにね。



ママが見ていたテレビは、プツッと音を立てて画面が消えた。
『…。』

美加ともう一度会ったら、どんな顔をしたらいいだろう?
合わせる顔なんて、ないんじゃないかしら…。
それに、帰ってくるとも限らないわ。
だってあの子、もうママのもとには戻らないって言ってたもんね。
さようなら。






自動車のエンジン音。排気ガスのうるさいにおい。
小鳥の鳴き声なんて、この街で聞こえるところがあるのかしら。
そういえば、田んぼのにおいだけはかげる。においって素敵。

すぐに向こうの世界と比べてしまう。
「忘れないから」ってのも誓ったしね…!
うそはついてないわ、美加は小さなあごでうなずいて微笑んだ。



これからどうしよう?
ママのもとへ帰る?
帰らないとして、どこで生きていく?
まずは丘に行こう。
そう思った


スウ、ハー
深呼吸して、この街のにおいで体中を潤した。
街のにおいでいっぱいになって、風船みたいに浮いて、どこかへ行けたらいいのに
な、と思った。


「私、ひとりで生きていく!」


大きな声で叫んだ。
マントの怪人に負けないくらいの頑張りで叫んだ。

大声大会があったら、多分一等賞ね!

ひかる 著