スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

テレビ (作者:ひかる)

テレビ 【2】

大きなお城のようなお家
その一部屋には、油絵で描かれたカボチャとナスの仲良しそうに寄り添った絵が飾られている。

今は夜中で、部屋は暗いが風は暖かい。
窓が開いていて、カーテンが春風に揺れていた。


その闇のベールに包まれた部屋のベッドには、若い女性がいる。
お腹が大きくて、
もうすぐ赤ちゃんが力強い生命をもって、この世に生まれてくるのだろうか、
と思わせる。
よく見ると、その女性は額に汗をかいていて尋常ではない様子。
立ち上がると、ふらふらと外へ出て
ブリキのバケツに水を汲み、持っていたハンカチを浸し、汗をぬぐった。
すぐそばにある大きな木を探し、体を預けるように倒れかかり、座って
ゆっくり目をつぶった。
私の体に、新しい生命が宿っていることを確認した。
ドク、ドク、と血が流れる音とともに、ドクンドクンと
小さな心臓が確かな脈を打っている音が聞こえるからである。
「今度こそ、生まれてきてよね、我が子よ」と、ため息と共に呟いた。

「この子は、この世界でいろいろなものを見れる、
目を開く、まぶたを開けてもいいのかな」
「かまわないさ」
「誰?」
・・・
「誰なの?」
「おや、あなたは目が見えないのかね」
女性はびっくりしたようなそぶりを見せた。
「大丈夫、怯えることはない。私は、この城に仕える年寄りだ。名は、デニー。
会った・・・いや、話したことは初めてだね。よろしく。
「はい・・・
「君の名は?
「私・・・私は、ファーラー。
「その赤ちゃんの名前は、決めているのかね?
「はい。でも・・・今までも授かっては、堕ちていきました。
まだ、産んだことがありません。
「そうだったか。辛いことを思い出させてしまって、すまない。
「いえ。こうして話をしたのは、いつぶりかしら。つい、心が弾んじゃって。

気がついたら、ファーラーは笑っていた。

ひかる 著