スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

スパイダーの悲劇 (作者:ミツル)

スパイダーの悲劇 【25】

<プリシラ>

    結構長い間ここにいるのにまだ知らない部屋があるなんて、なぜかしら? 知ろうとしなかったからかな。

    天井が高くて長く広い廊下の突き当たりの壁の、ずーっと上の方にガラス窓がある。そこからまっすぐに月のスポットライトが床に降りている。

   その光の中に人影が佇んでいた。

    ――あぁ、私、夢を見ているんだ。

    そこにいたのは、ルークだった。

    私はすぐに駆け寄った。だけど、何かが変だった。そこにいるのはルークに違いないのに、別人のようだった。それが良い変化ならいいんだけど、

   悪いものなのか良いものなのか、その時私には全然わからなかった。




<ルーク>

    あの屋敷で、プリシラ(もうお嬢様と呼ぶ必要はないって思っている)と別れたあの時から、再び出会った今――その時間は長いようで短いよう

   で、僕にとっては長くて長くて、待ちくたびれた。プリシラにとってどうだったのかはわからない。とにかくプリシラも、僕のことを想い続けてい

   てくれたことは確かだ。だからこそ、今こうして巡り会えたんだ。

    ただプリシラは、空白の時間で僕の身に何が起きたか、知る由もない。

   「プリシラ、」僕は照れくさそうに笑ってみせる。「もうそう呼んでもいいよね。……やっと会えたね。」

    僕はプリシラの手を取った。その時のプリシラの青い目は戸惑っているようだった。けれども、すぐにそれはキラキラと輝き出して、プリシラは

   僕の手を握り返した。

   「ルーク、普通にしゃべれるようになったんだね。やった。私も嬉しいよ。」




<プリシラ>

    ルークの変化は良いものだったみたい。ルークの顔はあの頃と違って生き生きとしている。その目は、その目は……相変わらず灰色の上に黒い斑

   だったけど。いや違う。今一瞬変な色が見えた。赤?

   「どうかしたの?」

   「いや、別に何も。」気のせいだ、気のせい。「ところでルーク、どうしてこんなところにいるの? それともこれは夢?」

   「ううん、現実。でも、プリシラが夢だと思いたいのなら、それでもいいよ。」

    現実の方がいいに決まってるじゃない。

   「じゃあ、あなたはどうやってここに来たの?」

    ルークは目をパチクリさせて少し首をかしげると、言った。

   「そんなこと気にしないで。今、僕らはこうして会えた。それだけでいいんだ。」

   「そりゃそうだけど……、だったら、あなたはどこから来たの? 今までどこにいたの?」

   「鉱山で働いてたんだよ。」

   「鉱山?」

   「うん。そんなことより……」ルークは私の腕を取った。「君に見せたいものがある。」

    ルークに連れられて行くと、どういうわけか私達は、影に沈む無機質な壁を通り抜けたのだ。やっぱり夢なんだ。夢じゃなきゃこんなことがで

   きるわけがない。夢は夢で楽しむしかないよね。

ミツル 著