スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

スパイダーの悲劇 (作者:ミツル)

スパイダーの悲劇 【22】

<プリシラ>

    私はあんまり、ルークのこと、スパイダーのことを口にしなくなった。いや、口にできなくなった。ダイアナが突然、もうスパイダーの話は

   したくないって言い出したから。

   「どうして?」

    就寝前のことだった。ダイアナはベッドの上で枕を抱えて座っていた。

   「だって、いくらあいつのことを考えたって……会えないんだ。あたしが何を思っても何も変わりゃしない。虚しくなっちゃったんだ。」

    そう言うダイアナはスパイダーのことを忘れたいってわけではなさそうだった。「虚しい」確かにそうなのだ。私だってそう思ったことがな

   いわけじゃない。相手が生きているかさえ、わからないのだ。それでも、私がルークのことを想い続けていられるのはなぜだろうか?

    そういえば、ダイアナはクロリスに呼び出しされてたっけ。

   「クロリスになんか言われたの?」

    ここの修道女達は一応、スパイダーのことは忘れるように言う。無理矢理にではないけど。

   「それもあるけど。」

    私はふと、ダイアナの声がいつもほど苦しそうに聞こえないことに気付いた。

   「なんていうか、平気になった? あいつのこと考えなくても。今まではあいつに何もしてやれなくなったのが悲しかった。でも、楽になった

   んだ。ここでプリシラと話したりして。そんなことで悩んでいてもしょうがない気がして……。」

    ダイアナの気持ちはよくわかった。わかったんだけど、その時の自分の身には置き換えられなかった。私は未だに、ルークと再び会えること

   を信じていたんだもの。それも、楽しい気持ちで待っているのだ。ここに来る前はそうじゃなかったのに。ルークと別れてお屋敷にいた頃は、

   ダイアナと同じような心境だった。ここに来て、自分以外にもスパイダーと仲良くなった子がいると知って嬉しかった。

「うん、わかった。」

    私はただ、そう言った。別に悲しいとか感じなかった。

    だからって何かが変わるわけじゃなかった。でも、変ったといえば1つだけある。ダイアナの声が少しずつキレイになっていったこと。ダイ

   アナはよく歌を歌ってくれるようになった。本当に上手だったよ。ダイアナと仲良くなったスパイダーは、すごく喜んでいたんだろうな。

ミツル 著