スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

スパイダーの悲劇 (作者:ミツル)

スパイダーの悲劇 【19】

   <プリシラ>

     「お部屋」にはベッドが6つ並んでいて、クローゼットも6つあった。クロリスはそのクローゼットから、襟が青い、船に乗る人が着そうな

      服を出した。この修道院には私のような子が他に5人いて、みんな同じ格好をするんだとか。私はその服に着替えて、元々着ていた服は――奇

      しくもあの夜、ルークと最後に過ごした夜に着ていたものだった――クロリスがどこかへ持って行こうとした。

      「ダメ!」私はクロリスの手からその服をひったくった。「これはルークと会えた時にまた着るんだから!」

      「へぇ、あなたが仲良くなったスパイダーはルークって言うのね。じゃあ、とにかくそれはあなたが持っていていいわ。」

     クロリスはあっさり私を許して、お昼の時間になったら呼ぶからそれまで好きにてていいわよ、と言って部屋を出て行った。ただし、敷地内

      にいてとのこと。

      「好きにしてていいわよって、私ここのこと全然知らないんですけど。」

     私は例のブラウスとスカートを見つめて、途方に暮れた。仕方がないので、それをクローゼットに押し込むと、部屋の外に出てみた。

     少し左に行ったところに階段があったので上に行ってみた。すぐ目の前にあった戸を開けると、そこは図書室だった。お屋敷の図書室よりず

      っと広くて本棚も高く、首が痛くなりそうだった。

     本を読むのは好きだから本棚の間をうろうろしていると、

      「あ。」

     と低い声が聞こえた。見ると私と同じくらいの女の子がいた。短い黒髪はちぢれていて、浅黒い肌にくぼんだ褐色の目をしていた。優しい印

      象を受けたけど、その口から出た声には驚いた。

      「新しく来た子?」

     首筋が震え、のどの調子が悪いのかなと思うほどかすれた声だった。でも、別に声を出すのが苦しいって感じはしなかった。

      「うん、そうよ。私、プリシラっていうの。」

     その子は私をちらちら見ながら本を選び始め、

      「ダイアナ。」

     とだけ答えた。

     ダイアナが手に取った本を見て、私はびっくりしてしまった。

      「スパイダー法?!」

     ダイアナはくるりと目を回すと、スタスタと歩き出した。私はその後について行った。

     机とイスがいくつか並んでいるところで、ダイアナは立ち止まり振り返った。

      「一緒に読む?」

     私はもちろんOKだった。机に広げた本に覆いかぶさるようにして二人でその本とにらめっこした。

ミツル 著