スパイダーの悲劇 (作者:ミツル)
スパイダーの悲劇 【11】
■11
<ルーク>
僕はお嬢様と過ごした夜を思い返しながら、いつもの掃除をやっていた。フフッって笑ってしまうことも度々あった。だからって、「何を
笑っているの? 早く自分の仕事をやりなさい。」とは誰にも言われない。誰も僕のことなんか気にかけちゃいないんだから。
お嬢様は別かも知れないけど。
「フフフッ。」
<プリシラ>
あの曲を別のピアノで弾く機会はすぐやってきた。先生は頭痛がするからって、基本練習をやってなさいって言って、
どっか行っちゃった。このことがお母様にばれたら大変なことになるね。くびになっちゃうかも。私は全然いいんだけどね。
「運命の女神様は私に味方してくれたみたい。こんな早く試せるなんて。」
でも、このピアノは十分ピカピカだから、何も起きないかな?
仕方がないので、私はピアノの部屋を抜け出すと、図書室に行って、古い埃だらけの本をいくつか持って来て、それをピアノの上ではたい
てみた。ほーら、ちょっとは古ぼけたピアノになった。
さっさと本を片付けると、私はピアノに向き合って座った。服に埃が付いたままだけど、構わないわ。
鍵盤に指を乗せた感じも、ペダルに足を乗せた感じも、地下室のピアノの方がよかった。あっちに慣れちゃったからな。こっちのは冷た過
ぎる。鋭い冷たさなのよね。地下室のは、地下室にあるのに優しい冷たさ。集中力が高まる感じ。
とりあえず、あの曲を弾こうとしたんだけど……。
「あれ、最初の音はなんだっけ?」
なぜか、まったく思い出せない。頭を振り絞って、どこかの一小節だけは弾けたけど、それもぐちゃぐちゃで。
「もう、わかったよ。」イライラして声が大きくなった。「とにかく、あのピアノでしか弾けないのね。」
「一体何事です?」
見ればドアから先生が顔を覗かせているじゃない。
「そんな大声を出して。ちゃんとやっていたのですか?」
今日のピアノのお稽古は災難だ。先生はピアノの埃を見ると、ヒステリックな叫び声を上げたんで大騒ぎになってしまった。お母様まで飛
んで来たし。ピアノを埃だらけにした件で、私は夕食抜きになった。フン、そんなの全然平気ですよーだ!
ミツル 著