スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

僕のギター (作者:朱音)

僕のギター 【4】

「最近、どうよ?」
「いやぁ、ぼちぼちかな」
「無難な台詞だな」
「そういうお前はどうなのよ?」
「まぁ、ぼちぼちじゃね?」
「変わんねえんじゃねーか」

くく、と喉を鳴らして俺は笑う。
やけに饒舌なのは、話題が途切れる様子がないからだ。
くだらない話をしながら歩くのは、
時間軸が逆回転をしてあの頃に戻してくれているからなのだろうか。
どんなに周りの状況が変わったとしても、
言葉を返すだけでまるで別世界に飛ばされるような錯覚に陥るのはどうしてだろう。


賑やかな喧騒を、影を背負いながら振り切るように歩く。
思い出話が尽きずに話を続ける。
宝物をひっくり返したように、あの頃のことを飽きることなく語る。
戻れないとは知っているのに、戻れないからこそ刻むんだ。
確かめ合うように、心に思い出という名の爪あとを残したいとどこかで願っているからなんだろう。
過去の事実を思い出として処理したくはないから、思い出さなければならない。
忘れたいと思っていたとしても、忘れたくないと言う本音がそこにはある。
駅が近くなるにつれて信号を待っていると、会話が途切れた。
暫く黙ったままだったが、弘樹は前を向いたままぽつりと呟いた。

「あのさぁ、健吾」
「んー?」
「俺、お前はやっぱり、もったいないって思ってるよ」
「何が?」

朱音 著