スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

ワタリ (作者:猫)

ワタリ 【3】

「あれ、春花・・・」
人の話し声で俺の声が消される
これじゃあ、届いてるわけがない。
「春花!!!!」
もっと大きな声で何度も呼んでみた
道行く人には冷たい目で振り返る人もいれば
まったく目もくれずに歩いていく人もいた。
こんな人の海じゃ彼女を見つけられない

「あっ、翼!!!」
後ろから強く掴まれた。
「ああ、良かったーここに居たのか・・・。」
その時俺はふと、彼女は自分が思ってたよりもずっと小さいことに気づいた

とりあえずアパートに着き、少し休むことにした
「さっき大変だったな」
「人ごみって歩きづらいんだね・・・」
「これから大丈夫なのか??ここで一人で暮らしても」
「平気だよ、そのうち慣れるよ」
「へえー強いなあー。俺なんてさっき参っちゃったけどね」
「うん・・・私も心細かったなあ」
彼女のさっきまでの言葉が強がっていたように聞えた。
そう思うと少し、胸が痛かった。



そうだ、俺は今日こそ言わなくちゃいけないことがあるんだった
「なあ、春花。俺さ、思ったんだけど・・・」
彼女は少し淋しそうな顔でこっちを見た
ああ、そんな顔でこっちを見ないでくれよ

猫 著