スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

群青 (作者:金魚)

群青 【11】

気がついたらもう日は暮れかけていた。

息をするたび体が痛い。

俺は何とか立ち上がろうと、
近くに落ちていた鉄の棒
を杖にして何とか立ち上がった。

腹部が特に痛く、左手だって力が入らない。

右足もだらりとなっていて体中はすり傷だらけだ。

「う・・・・あっ・・」

何か喋ろうとするけど、声を出すのも苦痛だった。

唇は引き裂くような痛みがあった。


俺は鉄の棒を杖にして右足を引きずりながら
歩き出した。

この廃墟は事務所の倉庫だった。
俺は何がどこにあるのか、はっきり知っていた。

まず、外に出て水道で傷口を洗った。

「う”っ!」

水が傷口に触れたとたん激痛が走る。

でもこの格好のまま、歩いてたら怪しまれるだろう。
我慢して固まった血を洗い流した。


―奴らが帰ってくる前にここから出なければ。


救急車を呼ぶ手もあった。
しかし、俺には行くべき場所があった。


鉄の棒を杖にして、必死に河原へと続く道を歩いた。

なぜか、人通りは少なかった。
一人ともすれ違わなかった。

でも、今の俺には幸いだった。
この姿を誰かに見られたら、
怪しまれ、救急車だって呼ばれかねない。


『河原まで、こんなに遠かったのか・・・』

そんなことを考えながら、必死に歩いた。

河原が見えてきた。

いつも座る場所が近づいてくる。

その場所には見慣れた背中がちょこんと座っていた。

「サ・・・・ヤ・・カ・・」

必死に声を絞り出しても出てくるのは変なかすれ声で
その背中は気づかずに、振り向くこともない。


「・・サ・・・ヤ・」

俺は力尽き、その場に音を立てて倒れた。

金魚 著