スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

群青 (作者:金魚)

群青 【6】

その次の日も、そのまた次の日も、俺は帰りに河原に行った。

そこにはサヤカがいて、俺にいろんな話を聞かせた。


親がいないこと。
姉と二人暮らしなこと。
職業は美容師で、自分はこの仕事が大好きだということ。


最初のうちは、ランランと瞳を輝かせて話をするサヤカが
羨ましかった。
でも、日がたつにつれ、俺はサヤカに心を開いていった。

俺はサヤカと話をするようになった。
サヤカは、俺の話にも耳を傾けてくれた。

サヤカといるときだけは、心が安らいだ。
この世界に戻れた気がした。

サヤカは俺がこの世界に入る前のこと、
俺の夢、俺の家族とかいろんなことを聞きたがった。

俺は最初自分のことを言うのがなんとなく照れくさかった。

でも、サヤカには、心をさらけ出せた。
俺にとってサヤカは、ヒカリのような存在だった。

俺はサヤカと話すうち、
日に日に

この世界から抜け出したい。

と、思うようになっていた。


恐る恐る、サヤカにそのことを打ち明けてみた。
サヤカは、

「優しかったあの頃の心を取り戻すのよ。
 裏切り者だって言われてもいいじゃない。」

と、言った。

サヤカの言葉は深く染み込んでくるものばかりだった。


俺は泣きたい衝動に駆られた。
サヤカはそんな俺を見て、後ろから優しく俺を
抱きすくめた。

「大丈夫よ。私はここにいるわ。」

俺をなだめるように呟いた。

俺の瞳から涙がこぼれ落ちた。

―俺はここにいる。
 この世界に生きている。
 自分の人生に恥じない生き方をするんだ。
 俺のいる世界を抜け出して、この世界で生きるんだ。

俺は決心した。
絶対にあの世界を抜け出してやる。

金魚 著