群青 (作者:金魚)
群青 【5】
彼女のその言葉が異常に俺の胸に染み込んだ。
彼女は俺から目を逸らさなかった。
逸らしたのは俺のほうだった。
全身の力が抜けていくのを感じた。
その場に倒れこむ。
ふいに泣きたくなった。涙が出てきそうだった。
彼女は俺の手を優しく、それでも強く握った。
そして
「大丈夫、君なら平気だよ。」
優しくほほ笑んだ。
普通に考えれば
物凄くなれなれしい行為だろう。
だけど俺はそう感じなかった。
むしろ、
―彼女は暖かかった。
彼女は、俺に手を振って、
「またここに来てよ。いつでも相談にのってあげるからさっ」
と言った。
そして俺に背を向けて駆けていく。
俺は彼女の背中をぼんやり見つめていた。
ふと、
彼女の背中が振り返り、
「私、サヤカっていうんだ。」
と言った。
―サヤカ・・・
口の中でつぶやいてみた。
俺の横にはサヤカが置いていった缶ジュースがあった。
俺はそれを飲んでみた。
それは桃の味がした。
とても優しい味だった。
俺は、サヤカにまた会いたくなった。
金魚 著