スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

群青 (作者:金魚)

群青 【3】

「わっ、ごめんなさい。ちょっとすべっちゃって」

俺の上におちてきたのは、コンビニの袋を持った一人の女だった。
肩まで伸びたサラサラの髪が、
風にゆらゆら揺れていた。

彼女は俺の格好をみわたすと、
「ひょっとしてヤのつく職業の方?」
と言ってきた。

俺は何も答えず、彼女を睨んだ。
彼女は一瞬怯えたように見えたが、
逃げる気配もなければ、怖がる気配もなかった。

俺は彼女を無視して、川を見ていた。
すると彼女は俺の横に座り、コンビニの袋からジュースを取り出し
「はい、これ」
とにっこり笑って俺に差し出した。

―なんだ、この女は!
俺を怖がりもせず、逃げようともしない。
俺はこいつを殴ることも殺すこともできるっていうのに。

俺は
「いらない」
と、はき捨てるように答えた。
すると彼女は、
「えー、おいしいのにぃ」
と口を尖らせた。
彼女はしばらくじっと俺を見ていた。

そしていろんな質問を浴びせた。

「ヤクザってどんな仕事するの?」
「何でその仕事してるの?」
「楽しい?」

俺は全てを無視した。
でも彼女はどこにもいかなかった。
そしてふいに、

「ねぇ、君新入りでしょ?」
と言った。

金魚 著