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フェイクファー by 朱音フェイクファー 【3】なんとなくという言葉のまま彼女はただの同僚から僕の恋人になって、 僕と彼女は一緒にいるのが当たり前になった。 接していくうちに僕も彼女にちゃんと恋愛感情を抱いてはいたよ。 あまりにも依存が大きすぎて、その重みを彼女に押し付けすぎてはいたけれど。 離れていったのは多分そういうことだと、今になってようやく判った。 だけど今となっては所詮、過ぎ去ってしまった過去の一部でしかない。 彼女が僕に微笑みながら言葉を与えてくれた次の日も、 僕は彼女を抱き締めて眠っているはずで、そんな現実を疑いもせずに僕は呑気に眠りについた。 当たり前のことなんてどこにもないという事実は、彼女が残した最後の置き土産だったのかもしれない。 その翌日彼女は僕の前から消えていて、僕はひとり残されたベッドの上で朝を迎えた。 ひとりぼっちの部屋の中で取り残されて、そのときは何が起こったのかよく判らなかった。 優しい日差しが降り注ぐ穏やかな、とても静かな朝だった。 もしかしたら太陽の光が彼女のことを消し去ってしまったのではないか。 彼女が持つ眩しさより太陽の眩しさの方が圧倒的に強いから、 彼女の姿が見えなくなってしまったのではないだろうか。 馬鹿な妄想を本気でしてしまうくらい、僕は愚かだった。 彼女は綺麗さっぱり姿を消していた。 形は何も残らなかったけれど、僕の心には彼女との思い出が残った。 心に刻まれた傷から、たくさんの思い出がこぼれてきた。 哀しいことの方が嬉しいことより遥かに心に残りやすいと言うが、 こういうときには嬉しかったことの方が思い出せるんだなということも、知りたくはなかったけど知ってしまった。 彼女が僕の前から消えたという事実の前で打ちひしがれるより、 「どうしていなくなったんだろう」と、そんな疑問を抱いてしまう僕はどれだけ自惚れていたのだろう。 むしろ僕は、黙っていなくなった彼女に怒りすら覚えてしまっていた。 同じ視点で立つことが嫌で、向き合おうとしなかった僕への戒めだと気づくのに、 時間がかかり過ぎて、彼女の残像を追いかけることもしなかった。 その時点で彼女を追いかけていれば、もしかしたら彼女はもう一度振り返ってくれたかもしれないのに。 時の流れは心の傷を宥め、忘れさせてくれる有難い存在だと知った。 いくつも季節は巡って、僕は少なくともあの頃よりはいくらか大人になった。 少しずつ現実を見つめるようになり、就職をしてそれなりに恋もして、これからの人生設計を考え始めている。 忙しくもとても満ち足りた生活を送るうちに、 彼女のことは“あのとき付き合っていたひとり”として、 そんな言葉で片付けてしまう美しい思い出として僕の中では処理されていた。 あんなに依存をしていてそして好きだと思っていた彼女のことも、 時は忘れさせてくれるなら、有難いけれど残酷な存在でもあるのかもしれない。 朱音 著
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