スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

魚 (作者:あつこ)

魚 【2】

「こういうのって運命の出会いって言うの?」
「分からない、けれど運命なんて信じてるの?七海は。」
「信じてないけれど、信じてみたいって今、思ってる」

七海とは2日前に海で会った
僕は大学のサークルの合宿で近くの民宿に仲間と泊まっていて
七海はこの近所で海の家の手伝いをしていて。
僕が酔い覚ましに民宿を出て、浜辺を歩いていたら彼女に出会った
彼女は誰も居ない夜の海で泳いでいたのだ。

ありがちで、でも無さそうで、そんな出会いを僕は大切にしたかった
僕も七海と一緒に運命を信じたいと思う。
僕がこの街に居るあと3日間、七海との運命を確かめたいと思う。
でもそんなこっぱずかしいこと言えなくて、僕も海を見た
目の前に広がる大きな、偉大な海。

七海とは波長があった
呼吸のリズムのようなあたりまえが同じに聞こえて
好きな音楽などの趣味が合って、
長いまつ毛と、泳ぐために生まれてきたような手足にあっさりと恋におちる

「あとこっちに何日間いるの?」
「3日。今日をのぞいたらあと2日だけ。」
「ふうん」

恋人でいられる期間はあと2日だけ?
僕が街に帰ってもこの時間は続く?
恋人と呼んで良い?
いくつもの押し寄せる質問に、終わりを告げて手を握った

潮の匂いが僕らを包んで夕焼け色に海が染まろうとしていて
浜辺に立ったパラソルたちはどんどん閉じていった
いくつもの家族や恋人同士が変える準備をしたりしている

握った七海の手は思ったより小さくて、カラッとしていて太陽のようだった
ぎゅうっと握る 時が止まればいいのに。
七海の横顔が夕陽に照らされて綺麗だった
防波堤に座った僕らはいつまでも海を見続けた

「海、すごい綺麗」
え?と僕は彼女の方を見る
彼女は海にうつった夕焼けに見とれていて、目が潤んでいた
「本当だね、綺麗。でも七海、こんな海しょっちゅう見てるんじゃないの?」
「うん、いつも見てるの。でも、こんなに綺麗なんだね、海。忘れていたかもしれない、私。」
「海の綺麗さを?」
「うん、私あんまりいつもこの海と一緒に居たからきっと忘れていたんだ。こんなに綺麗だったのに。」
「七海?」
「え?」
「何で泣いているの」
「あ、本当だ。」
気づいていなかったのか、と僕は言って彼女の目に溢れた雫のひとつひとつを大切にすくうようにして拾い上げる
こんな小さなこともいつか幻になってしまうの?
この恋に終わりは来るの?七海。

あつこ 著