スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

優しくなりたいな (作者:あつこ)

優しくなりたいな 【4】

「篠崎さん」の家の前に、大きな紙袋があった

これはもしかしたら、チャンスなのかもしれないと思った
篠崎さんの家のベランダにはいつも、
白や黒などの色彩の足りない服ばかりが並んでいてよく好みが分からなかった。
観葉植物を2つ3つ育てているみたいで、それらはどれも暑さに強そうなやつで。
月夜が好きなんだと分かった。
月が綺麗な夜はいつも歌声が聞こえた
朝は8時には家を出ていて、夜は2時や3時は余裕で起きているらしい。
時々部屋からはお風呂の水が溢れる音がした


紙袋の中身をチラ見、というより盗み見したら中には軟式の野球ボールとキャッチャーミットが2つ入っていた
スポーツをやっている人なのだろうか。それとも別の目的でだろうか。
分からないけれどなんとなく、中身がサッカーボールとか、テニスラケットじゃ無くて良かったなと思った


溢れる水の音を聞くたび、いろいろな想像をした
隣に住む「篠崎」は多分これからお風呂に入るのだろうか
真弓のような短い髪なのかもしれない、髪を洗うのか、
風呂場で一人で泣くのかもしれない、女ってのはよく分からないものだから。
そこまで考えてその後やっと「何考えてるんだ、自分」と情けなくなる
だけれど考えることは止まらない。
想像してしまう、「篠崎」さんについて。会ったことも無い人について

あつこ 著