スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

地図にない国 (作者:彩香)

地図にない国 【6】

「ハヤテ、何でここにいるんだ?ここの布を身につけていないが断ったのか?まだここの水も食べ物も口にしてないな?ああ、ここでこうして会えるなんて。俺が死んだ後、ハヤテはどうやって生活していたのか、本当に心配だったんだ。」
父親はハヤテの手をつかみ、今までハヤテが見たことがないほど心配そうな顔で話しかけて来る。ハヤテはそんな身勝手な父親が許せず、手を振りほどいて怒鳴った。
「触るなよ!今まで散々ほったらかしにして。いまさら父親ぶって心配するなんて、勝手だよ!あんたは、生きてたのに、息子の僕をまた放って、ついに見つけたあんたのユートピアで呑気に農作業!それなのに心配してただって?よく言うよ。」
「違う。違うんだ。俺がこの国に執着していたのは理由があるんだ。この国へ来て、ここの国の物を身につけると……。」
「話なんて何にも聞きたくない。家族を捨ててまで生きたかった国で暮らしてるんだから、それでいいじゃないか!」
父親はハヤテの手をギュッとつかんだ。振り払おうとしても振り払えない。強くて大きな手は、ともに暮らしていたときにベッドの中で感じた背中の温もりと変わらず、頭の中では父親だと思いたくないと叫んでいるのに、懐かしさに涙が出そうになった。
「ハヤテ、この国に招かれると外には出られないんだ。」
「一度は帰って来たじゃないか!」
「未練があったからだ。このユートピアのような国で家族3人で暮らせたらと思ったから、会いたい人がいたら、俺はこの国から出れたんだ。一生ここで暮らせると聞いた時、お前たちも連れて来たいと感じたから、強く願ったから帰れたんだ。」
「何言ってるかよくわからないよ。それに、母さんが出てっても僕が何を話しても、あんたは無関心だった。」
父親は渋い顔をして、情けない声を出した。
「この国を見つけることができれば、必ず元に戻ると思ったんだ。たとえバラバラになっても、この国を3人で訪れればすべてがうまくいって、幸せにここで暮らせると、思ったんだ。」
「そんな、言い訳みたいなこと……!」
ハヤテは興奮したように言うと、父親は唇を噛む。それから、頼りない眼差しでハヤテのことを見つめた。
「そう言われても仕方がないな。たしかに半分は、地図にないこの国を探すのに夢中になっていたし、自分で今考えても子供のような考えだと思うからな。」
そして、父親は真っすぐにハヤテを見たまま手を握る力を強めた。
「でもハヤテ、お前を全くかまってやれなかったが、お前のことはいつも愛していた。もちろん今も愛している。どうでもいいなんて思ったことは一度もない。」
ハヤテの動きが止まり、父親を見つめる。父親の瞳の奥から真相を探るが、彼が嘘を言っているとは思えなかった。
「ずっと後悔していた。どうやって暮らしていた?街には戻れたのか?お金は?今ここにいるのはなぜだ?父さんの病気が移ったのか?それとも誰かにいじめられたのか?凍え死んだのか?飢え死んだのか?」
何も聞こえなかった。単純なのかもしれない。それでも、父親の言葉を信じたいと、父親の愛を信じたいとそう思った。愛しているという言葉で、凍りついていた父親への思いが一気に熱に変わり、爆発しそうなほどだった。死んだはずの父親が生きていて、こうして会えることなど奇跡だと思ったのだ。

彩香 著