スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

さくらんぼ探偵事務所 (作者:りょぅ仔)

さくらんぼ探偵事務所 【第11話】

「予想以上に怒ってますね、草野さん」

「ねぇ、さん付けやめてくんない?」



からかう三輪に草野が言い返す。

「だって・・・ねぇ。
 なんて言っていいか分からないし。
 あそこでずっと黙ってたら、菜々ちゃんにもなんか悪い気がしたし。」


ショボンとする草野に、田村が言う。

「まぁ、草野の気持ちも分からなくはないけどね。」


「謝っちゃえば?」


崎山は、菜々子の依頼料金で買ったであろうポテトチップスを開けながら、簡単に言った。
その光景を見た三人は飽きれた様に言った。
「「「ポテチの袋を開けるみたいに簡単に言うなよ。」」」


その言葉を聞いた草野は
「あぁー、意外と難しいよね、謝るって。」
と考え込んだ。


「女の子だもんね。」


「あぁ、なんか”女の子”って響きいいね。」

「だから、いい加減そのキャラやめれ。」

話を脱線しつつも、なんやかんやで結局最後には”謝る”ということになった。

はぁ、と草野は溜息を吐き、窓辺に歩いていった。
空を見て、草野は何かひらめいたように話し始めた。


「ねぇ。」

草野は、静まり返った部屋で、空に浮かぶ月を見ながら言った。

「変な事ゆーなよ。」

と三輪が念を押す。
草野は、苦笑いし「まさか」と小さい声で言った。




「・・・・菜々ちゃんはさ。
 なんでここに来たんだろうね?」


「「「・・・そりゃぁ、寂しいからでしょ。
   両親忙しくて。」」」

三人は、同時に言う。


「だよね。
 でもなんでさ、こんなボロくて、保育事務所みたいな名前の探偵事務所に来たんだろう?」

「・・・ああ、そう言えばそっか・・・
 って、俺のネーミングセンスに文句あんのか?」

と田村が納得したと同時に笑顔で怒りを表した。


「僕らはさ、ここの住所、ぶっちゃけ覚えてないよね。」

「あぁ、まぁね。
 あまり仕事もないし、大きな会社との契約もないしね。」

普通の人間が聴くと、驚くような会話だが
いここではいたってありふれた会話である。

「ってことはさ、誰もここの住所を知らないって事でいいんだよね?」

辺りを、沈黙が包む。


「僕らは住所を知らない、というか

 そもそも、


 ・・・・チ ラ シ な ん て 配 っ た こ と な い よ ね ? 」


その言葉を聞いた途端、部屋全体の空気が固まった。



「初めて菜々がここに来た時、
 ここの場所が書いてあった紙切れを持ってたような気がする。」

その声の主は三輪だった。


「僕らにはさ、事務所を建てた時からお金だってそんなになかったし
 広告も、先延ばし先延ばしにしたままだったじゃん?

 なのにさ、なんで、菜々ちゃんは僕らの事務所の住所の紙を持っていたんだろう?」

りょぅ仔 著