スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

さくらんぼ探偵事務所 (作者:りょぅ仔)

さくらんぼ探偵事務所 【第9話】

場所は、事務所の玄関ホール。
普段は、応接室のような役割らしいが、客が少ないのでメンバーの憩いの場と化している。

ソファーに腰掛け、まったりとした笑顔を浮かべている崎山。



「・・・・アハハ。
 びっくりさせてごめんね。」


そう言う崎山の前には、サクサクに揚げられたとんかつが三輪の手によって運ばれてきた。
湯気のあがったとんかつを見て、崎山はそれまで以上に目を輝かせる。

つい5分ほど前に、崎山は煮込みハンバーグと鶏の手羽先を完食し終えたばかりだ。


「アハハ」じゃないですわよ。

このあたくしのテンションを朝からドン底に突き落としておいて、
なにヘラヘラ笑っいるんですの。




「あなたが”崎山”ですの?」


そのセリフを聞いて、また新たに運ばれてきた目の前の分厚いステーキに見とれていた崎山は、皿から視線を外し、驚いた顔をした。



「へぇ、僕の名前を知ってるんだね。
 初対面の子にまさか呼び捨てされるとは思ってなかったよ・・・。」


はぁ、と溜息を吐いて、崎山は三輪に問いかけた。


「そうそう、この子誰?」



三輪は、なんで俺に訊くんだと言ったような微妙な顔をして答えた。


「新しい依頼人なんだ。
 両親が自分を探しにくるか、それまでかくまってほしいらしい。」


「・・・・・へぇ。」

しかも、「へぇ」って・・・反応薄いですわね。
このあたくしより、とんかつの方が重要ってやつですの?



「まぁ、この年頃はね、うん。みんなそんな感じさ。」


崎山は妙に納得したように優しく頷き、サクッといい音を立てながらとんかつをほおばる。
菜々子は笑顔で「適当言ってんじゃねぇぞ。」と言った。


「まひゃむねー(まさむね)、さいこふだよ。(最高だよ)」


崎山は、菜々子の言葉のナイフにも気付かず、
口の周りにとんかつの衣をつけて、子供のように笑いながら、そう言った。


草野は、台所から「そっかー」と嬉しそうに返事を返した。
崎山がまだ目覚めていない時、草野はフリルのついた可愛らしいエプロンを装着し、「崎ちゃんは俺が救う!」とかなんとか言っていた。
食事の係は、草野らしい。
変態的な感オーラを放つ割りに、料理は上手だ。



聞いた話が本当だとすれば、崎山という人物は、かなり単純な構成でできているらしい。
腹が減ると意識が朦朧ろするとは、どれだけ極限状態で毎日生活しているんだろう。


そんな中、台所で一匹の白い子猫が歌っていた。


「♪腹が減るなら大丈夫」


その歌声は、もう既に廊下に出ていた草野と田村には届いていなかった。










玄関ホールに屋敷の住人5人が集まった。


「んじゃ。
 全員揃ったところで気を取り直して、自己紹介からいきましょうか。」



「なんか合コンみたいでウキウキするね。」と言う草野に「いいかげんそのキャラ止めんか。」と三輪が突っ込みをいれる。
三輪も突っ込むことにそれなりの体力を使うらしい。


順番は、田村→草野→三輪→崎山→菜々子となった。



「えーと、社長の田村明浩ですー。
 好きな食べ物はカレーです。35歳です。
 よろしくお願いしまーす。」

随分と坦々とした自己紹介に一同は拍子抜けしてしまった。

続いては草野。

「草野正宗でーす。
 えーと、好きな食べ物は・・・貝とか、プリンとかかなぁ。35歳です。
 よろしくー。」


続いては三輪。

「ういー。三輪徹也です。
 寿司好きです。歳はみんな一緒の35です。」

そんだけ!?と菜々子は思わず突っ込んでしまった。
贅沢が禁止されたこの環境で寿司が好きと言うのは許されるのだろうか。

続いては崎山。

「えー、崎山龍男です。
 肉好きですね。35。」

菜々子はまた、そんだけ!?と突っ込んでしまった。
だから、この環境で肉好きとか言っていいんですの!?
草野は、貝とか言ってるのに!?
や、別に貝いいですけど!
貝おいしいですけど!

しかも「35」って、箇条書きみたいに言われても!


最後に菜々子。

「初めまして、あたくし橋本菜々子。
 好きな食べ物は・・・〜・・。
 よろしくお願いしますわ。」


菜々子の自己紹介に、その場に居た菜々子以外の4人は首をかしげた。

4人は顔を見合わせ、草野が代表して質問する。

「菜々ちゃん、好きな食べ物は?」



「・・・え?」


「や、え?じゃなくて。
 食べ物・・・「え?」

「あのっ、セリフの途中で言わないでほしいんだけd・・・「え?」

「・・・・あの、、、「は?」


そろそろ草野が可哀相に思えてきて、奈々子は質問を聞いてやることにした。



「・・・なんですの?」


めんどくさそうなオーラを発し、菜々子は問いかける。


「はい・・・食べ物が聞こえませんでした・・・」


すっかり、先生と生徒のようになっている。

菜々子は、その質問を聞いて、しばらく沈黙した。


しばらくして、顔を赤くして小声で答えた。







「・・・・・・・・・・・・・肉じゃが」





「「「「・・・・・・・????・・・・・・・・」」」」


四人は固まった。







”肉じゃが”のドコに恥ずかしがる要素があるのか???と





「・・・・や、・・・なんで恥ずかしがるの・・・?」


崎山が、そう質問すると、菜々子が答えた。




「幼い頃・・・学校で言ったら笑われましたわ。」




「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」



何で?

四人は再び固まる。

そこで、草野が叫ぶ。


「おぉぉおおぉおおぉ!!??肉じゃがのどこが恥ずかしいんだ!!!???
 なんだその学校!?
 どこだ?どこが恥ずかしい!?言ってみろぉおぉぉおおぉお!!」


草野は叫び、菜々子の肩を激しく揺さぶった。



「あわわわわわわわがが!!
 ”庶民じみてる”っていわれたんですの!!!」


「庶民だぁーーーー!?
 庶民のなにがいけない!
 庶民差別反対だぁぁぁぁああぁあぁ!!
 世の中には肉じゃがも食べれない人々がたくさんいるんだぞ!!
 庶民なめんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



「そんな!
 あたくしに言わないでくださる!?
 いいから・・・肩!・・・肩!!!
 舌噛んでしまいますわ!!」



ぁ、ごめん。と言って草野は菜々子の肩から手を離す。

目が回った菜々子は、しばらくの間ぐったりとして、話始めた。

りょぅ仔 著