スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

さくらんぼ探偵事務所 (作者:りょぅ仔)

さくらんぼ探偵事務所 【第5話】

「依頼料金はいくらで?
 ・・・・の前に、依頼内容の確認からですかね。」



廊下から出てきた男は、見るからに誠実そうな男だった。

左手にB4サイズのファイルを持ち

右手に安っぽいボールペンをもっている。


とりあえず、ファイル男と呼んでおく。





「・・・内容ですの?
 そうですわね・・・・」





黒いパンプスをカツカツと鳴らしながら、ファイル男に近付き、肩に手を置いて言った。


















「あたしを、攫って。」


















「「「・・・は?」」」





「・・・ですから、は じゃなくて。
 攫って。」


「「「さらって?」」」



「そう、攫ってくださる?」




テツヤは埃被ったソファーに座ったまま固まり。

ファイル男は菜々子に肩に手を置かれたまま固まり。

正宗は、そんなファイル男の隣で固まっている。









・・・・3分程の長い沈黙の後、最初に口を開いたのは正宗だった。






















「・・・(ニヤ) 俺ならさらってあげてもいいけど・・・」

























「って意味違うから!!たぶん、絶っっっっっ対に!
 なんか怪しーんだけど、マサムネが言うとなんか怪しーんだけど!
 
 何?何なの最初の(ニヤ)って!?
 ()何!?この場合()はいるの!?
 うっすらニヤけるなよ、ホラ今!ニヤってした!」



正宗の発言に、見事な突っ込みを入れるテツヤ。





「・・・・フフフッ・・・イヤ・・・
 ンフフ・・・別に」




「あからさまにニヤけるなぁ!
 何考えてるんだよ!

 一番ロリコンなのはマサムネだろ!? 

 あぁぁぁぁぁ!!
 もうだめだぁ!
 完全にキャラ壊れてるよマサムネ!!!
 連載始まったばっかの小説なんだから!
 最初は慎重にいかなきゃいけない時に!軽はずみな言動はよくないって!!
 事実、マサムネが居るからスピッツ好きって人もいるのに、それはよくないよ!!」



「フフッ・・・またね、こう・・・
 いい感じにオレ様なお嬢様な感じが燃えるよね。」



「もう勝手に燃えてろぉぉぉ!」






二人をよそに、ファイル男と菜々子は話を進める。



「・・・・えぇと、それはどういったアレで・・・
 恋愛ドラマの見すぎではないかと・・・」



戸惑うファイル男に、菜々子が言う。


「うるさいですわ。
 まぁ、簡単に言えば・・・かくまうってことですわ。」




「「「かくまう?」」」



「そう。」


三人は口をそろえて言った。


「・・・なんか・・・
 響き的になんか、悪い人を守ってるみたいな・・・」



そのセリフを聞いて、菜々子が喋りだす。



「悪い人?失礼ですわね。
 そうねぇ、あたくしホラ結構見た目いい線いってるじゃないですか。
 スタイルだってそこそこいいし、顔立ちもいいし。
 センスだって悪くないし、家はお金持ち。

 欲しい物は、大抵手に入るんですの。」




菜々子の自慢話に、テツヤが"自慢しに来たんすか"と呟く。



「・・・だけど・・・・」




そこまで言った時、菜々子の顔が曇った。


溜息を吐きながら、クモの巣が張っている窓辺に立つ。




「・・・誰も、心配してくれないですわ。
 パパもママも忙しいし、家ではいつも一人ですし。学校でも。
 別に、一人が恥ずかしいってわけじゃないんですの、でも

 ・・・消えても、変わらないんですの。何も。

 だけど、ちょっとだけの可能性に賭けてみたいって。」




「・・・可能性?」


ファイル男が訊いた。



「えぇ、両親が心配して、探しに来てくれるかどうかですわ。

 ・・・・っていうのが、依頼内容。よろしいですか?」






三人は、顔を見合わせて少し笑った。





三人を代表して、ファイル男が菜々子に近付いた。





「俺の名前は、田村明浩です。
 一応この事務所の社長やってます。


 こっちが草野正宗。
 ほとんど事務所の留守番係、炊事とかも正宗だからね。

 そんで、こっちが三輪徹也。
 買い物担当で、ここら辺の抜け道に詳しいんだよ。」



一通り紹介が終わったようで、三人バラバラに"よろしく"と言った。


田村が、ぁ、そうだった。と呟き、続けた。



「今ここにはいないけど、あと一人メンバーいるから。
 紹介はそん時でいいよね。」




そう言って、ちょっと笑う。




「まぁ、お客さんだし。
 親を試すのはどうかと思うけど、
 とりあえずこんな事務所でよければ、よろしく。」


そんな、ちょっと紳士的な田村に


「・・・ふん、まぁ、しょ・・・しょうがないですわね・・・
 わたくしの名前は橋本菜々子。
 こちらこそ、よろしく・・・ですわ・・・」



と、恥ずかしそうに菜々子が言った。

りょぅ仔 著