スピッツの曲にまつわるオリジナル小説

会いにゆくよ (作者:ぽわん)

会いにゆくよ 【4】

「うわ、寒っ!」
家からでたとたんキンキンに冷えた風が僕の頬を横切った。
白い息がでて、さらに冷たさを増す。
「今夜も冷えるな・・・。ただでさえ石油価格上昇でうちは困ってる
っていうのに・・・・・・。」
近所のおばさんが言うようなセリフかもしれないが、僕にとってこれは
かなり深刻な問題だ。僕のうちはハッキリ言って・・・・・・金がない。

母さんは昔から体が弱く、仕事も調子のいい時はバリバリ働くけれど、
一度調子を悪くするとしばらくは家に引きこもることになる。
そんな母を置いて、遠くにいる君に会いに行くことはできなかった。
君も「夏も冬も部活で毎日忙しいから、私からも会いに行くのは無理だわ。」
と笑って言っていた。

冬でも相変わらず走っているのかな・・・?

あの日の君を思い浮かべながら、冷たく凍った道を走る。右側にはすべり台や、
ブランコが真っ白な粉にまみれて静かに立っている。

君に初めて会った時は、今の時期と正反対の暑い暑い、暑くて倒れそうなくらいの
真夏だった。


その時僕は、母さんに夕飯のシチューの材料の買い物を頼まれて、ジャガイモやらニンジンやら
が入ったスーパーの袋をぶらさげて帰るところだった。とりあえず暑かった。汗がじわじわ
と湧き出てきて、頭がボーッとする。それでも太陽が容赦なく僕の頭上を照りつける。

「やばい・・・・・・。」

セミのミーンミーンという声がどんどん遠くなっていく。

だめだ、こんなとこで倒れたりしたら・・・。

両手に持った袋が、つけもの石のようにズンとどんどん重くなっていく。

支えきれなくてしゃがみこむ。

母さんに変な心配かけちゃうじゃないか・・・・・・。

水を買ってくるんだった・・・・・じゃなくて・・・・。


『バシャッ』

・・・真上から水が降ってきた。しかも大量に。

「大丈夫?」

いきなりペットボトルの水を頭上からぶっかけてきた。それが君だった。

「あ、うん・・・ごめん僕・・・・・・。」
誰だろう・・・?まだ意識がはっきりしない。
「熱射病じゃない?ほらこれ飲みなよ。飲みかけで悪いんだけど。」
「ありがとう・・・・・・。」
一口飲んだ水は冷たくて、僕の体の奥まで染み渡っていた気がした。
「大丈夫?」

僕は初めて君を見た。 
ちょっと日に焼けた肌、二重の大きな目、ショートカットの笑顔の女の子。
次の瞬間僕は
「好きです・・・・・。」
と言っていた。自分でも驚いた。たぶんこれがドラマとかでよく見る一目ぼれ
ってやつなんだと思った。

君は「もし、あそこで助けたのが、あたしじゃない別の人なら、あたしには告白
しなかったと思うわ!」
とよく言うけれど、あの時君の笑顔を見た瞬間「この人だ!」と思ったんだ。
(「なぁにが、『この人だ!」よ!と笑われてしまったけど)

ぽわん 著